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    tsuyuirium

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    tsuyuirium

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    いただいた茶碗蒸しというお題で書きました。
    風邪っぴきの聡実くんに狂児さんが茶碗蒸しを振る舞うお話です。

    卵はぐっすり茶碗蒸しの夢を見るか ひやりと冷たい何かが額に触れる。それは汗ばむ前髪の生え際を辿々しくなぞり、張り付く不快感を少しだけ緩和してくれるその動きから、触れているのは狂児の指だと分かった。
     唾を飲み込もうとすると喉が酷く痛い。辛うじて、喉に比べて軽症な鼻詰まりのおかげで呼吸に不自由はなかった。
     目を開けると滲む視界には、こちらを見つめる狂児のようなシルエットが映る。頭蓋骨から内側が割れそうに痛む頭と熱に浮かされた思考では、今この瞬間が夢なのかどうかも分からないけれど、額に触れる冷たい狂児の指だけが、現実に僕の輪郭を繋ぎ止めてくれていた。
    「聡実くん、起きれる? さっき食欲ないって言ってたけど、お薬飲まなやから、なんか食べんと」
    「……ぅ」
     静まり返った寝室に狂児の低い声が響く。いつものやたらと張り上げた大声ではなく、囁くように穏やかな声だった。
     狂児の首に手を回すように言われ、その通りに腕を伸ばせば抱きかかえられるような形で上半身を起こされる。ぽんぽんと、あやすみたいに撫でられた背中が、狂児の触れたところからぽかぽかと熱を持つ。
    「茶碗蒸し作ってん。食べられそ? 具入ってないシンプルなん」
     茶碗蒸し。平時であれば一も二もなく頷いていただろうが、全ての反応が鈍くなってしまった今、曖昧に首を斜めにすることしかできなかった。
    「あんま期待はせんとって。まつたけのお吸い物の素で作ったんよ」
     狂児はそう言ってぎこちなく口角をあげる。狂児が、茶碗蒸しを、作った。頭に単語を浮かべると随分とシンプルな構文でも、落とし込むのにしばらく反芻する必要があった。
     ベッドから起き上がって移動しないでいいように、狂児はすでに茶碗蒸しを持ってきてくれていた。普段であれば行儀が悪いとすることではないけれど、このときばかりは助かる。
     茶碗蒸しはマグカップに入っていた。熱いから気をつけて、と手渡されたマグカップの持ち手に指を通す。中身は出来立てのようでほかほかと湯気が立ち上るところに、嗅ぎ慣れたお吸い物の出汁の香気も漂ってくる。腹の虫が鳴くほどの熱烈さはなくとも、塞ぎ込んでいた食欲を再び呼び起こすのに、この香りは最適なものだった。喉の痛みはなくならないけれど、この香りを前にしてしまうと最早それは些細なことのように思えた。
     狂児が手渡してくれるスプーンを取り、中身を掬い出す。差し込んだ表面の亀裂から、閉じ込められていたお出汁と湯気が溢れ出てくる。スプーンを持ち上げればふるりとちょうど良い固さでほぐれていき、熱も冷ましやすくなる。薄いクリーム色をした卵液が、お吸い物の出汁を一身に受けて固められている。彩り程度の海苔や麩が、今からだが受け付ける限界でちょうど良いものだった。
     ちょうど良い頃合いで粗熱もとれてしまえば、漸く口にすることができる。大袈裟に噛む必要もなく、つるりと飲み込むことができるので、あっという間になくなってしまいそうだった。味はもちろん、企業努力によって裏打ちされた上品な出汁の風味が卵と合わないはずもなく、お吸い物として以外のポテンシャルにも驚かされる。
    「レンジでチンして簡単やねんけど、あんまキレイな見た目にならんかったわ」
     ひとまず僕が食べ進めているのを見て安心した狂児は、バツが悪そうに眉尻を下げてそう呟く。そう言われて改めて、茶碗蒸しを眺めてみれば、確かに表面はぽこぽこと空気の穴がクレーターのように点在している。それでも食べ進める上で違和感はなく、味にもなんの問題もないのでこちらは全然気にならない。というか作ってもらっておきながら、そんなことを言うような不躾さはさすがに持ち合わせていない。
     けれど狂児には妙に完璧主義じみた気があるのは知っていた。レシピは忠実に、アレンジなんてもってのほか。この茶碗蒸しもきっとそうして作られたのだ。
    「食べやすい。おいしい」
     気がつけば中身を半分ほどすでに平らげていて、ここまでくれば残りも問題なく全て食せるだろう。その様を見た狂児もふう、と息をついて、再びゆっくりと背中を撫ぜてくれる。
    「よかった。でも無理せんと」
     何の無理もしていない。事実からだは熱が出ているが、欲していた栄養は狂児のおかげで摂取することができた。
    「ごちそうさまでした」
    「はい。おそまつさんでした。ゆっくり寝とき」
    「ん……狂児さん、ありがとう」
    「んーん、はよ元気なってね」
    「……こんど、どんぶりで、茶碗蒸し食べたい」
    「ふ。ええなそれ」
     再びゆっくりと背中を倒されて、枕元から狂児を見上げる姿勢になる。狂児はすぐに立ち去らず、そばで膝をついていた。布団をきれいに掛け直した上から胸元をぽんぽんと、優しいリズムで寝かしつけてくれる。そうされながらまた、前髪を梳く指先が冷たく心地良い。平らげた茶碗蒸しが、まるでまだ熱を持ったままのようで、胃の奥からぽかぽかと温めてくれるのも手伝ってか、次第に瞼が重なり意識を手放していた。
     その時に珍しく、夢を見た。蟹や鶏、しいたけに三つ葉の入った具沢山の、バケツサイズの茶碗蒸しを狂児と一緒に食べている夢だった。
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    tsuyuirium

    DONE大学三年生になって長期休みにまなちゃんと二人で京都旅行にきた聡実くんのお話です。
    まなちゃんのキャラクター造形を大幅に脚色しております(留学していた・そこで出会った彼女がいる)ので、抵抗がある方は閲覧をお控えください。
    狂児さんは名前だけしか出てきませんが、聡実くんとはご飯を食べるだけ以上の関係ではある設定です。
    とつくにの密話「おーかーぴ、こっちむーいて」
     歌うように弾む声で、呼ばれた自分の名前に顔を上げれば、スマホを構えたまなちゃんと画面越しに目が合う。撮るよー、という掛け声のもと、本日何枚目かのツーショット写真の撮影がはじまる。ぎこちなさが前面に押し出されている僕とは対照的に、綺麗な笑顔をした彼女の姿を切り取ることに成功したらしい。ツーショットに満足したまなちゃんは、今度は建物の外観をおさめようとカメラを構えていた。シャッターを切り続ける彼女の横で、せっかくならばと僕も彼女の真似をして二、三枚の写真を撮ってみた。
    「そんな待たなくて入れそうでよかった〜おやつどき外して正解だった」
    「ほんまやね。ここ人気なんやろ?」
    「週末だと予約したほうが無難ぽい。あとアフタヌーンティーするなら予約はマスト」
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    izayoi601

    DONE思いついたので一人飯するじょしょどのの話。台詞などでも西涼二直の中ではじょしょどのが一番食事好きな方かなと妄想…脳内で色々分析しながら食べてたら良いです…後半は若も。庶岱と超法前提ですがもし宜しければ。ちなみに去年の流星での超法ネップリと同じ店です。
    早朝、一人飯「これは、まずいな……」
     冷蔵庫の中身が、何も無いとは。すでに正月は過ぎたと言うのに、買い出しもしなかった自らが悪いのも解っている。空のビール缶を転がし、どうも働かない頭を抱えつつダウンを着るしかない。朝焼けの陽が差し込む中、木枯らしが吹き付け腕を押さえた。酒だけで腹は膨れないのだから、仕方無い。何か口に入れたい、開いてる店を探そう。
    「……あ」
    良かった、灯りがある。丁度食べたかったところと暖簾を潜れば、二日酔い気味の耳には活気があり過ぎる店員の声で後退りしかけても空腹には代えがたい。味噌か、塩も捨てがたいな。食券機の前で暫く迷いつつ、何とかボタンを押した。この様な時、一人だと少々困る。何時もならと考えてしまう頭を振り、カウンターへと腰掛けた。意外と人が多いな、初めての店だけれど期待出来そうかな。数分後、湯気を掻き分け置かれた丼に視線を奪われた。
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