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    nekotakkru

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    #腐向けヘタリア
    hetaliaForRotten
    #普墺
    #水と油

    遅れてきた拾い物先に動いたのはハンガリーだった。普段とは違う、控えめながらに上品なドレスにも関わらず、どこに隠していたのか現れた(それは普段着からでも言えることだが)、愛用のフライパンを片手に目の前の敵へと向かっていく。振り上げたそれは敵と認識されている相手、プロイセンへ真っすぐ下ろされた。が、敢えなくそれは避けられ、更に追撃に備え距離を空けられた。

    「ケセセそんなの当たらねぇよ怪力女」
    「今日こそは覚悟しなさい鳥男」

    罵声を飛ばしながら空けた間を一気につめる、流れるような連撃はしかしぎりぎりのところで躱される。それでも、顔に笑みを浮かべてはいるがプロイセンも余裕があるわけではない。あのフライパンの威力は知っている、多分今まで一番味わってきた、何度となく『死んだかも』と思ったことだろう、気を抜けばやられる、殺られる。
    生死をかけた緊張感のあるやりとりに、周りのギャラリーも盛り上がる。二人をぐるりと囲んで逃げ場をなくし、焚き付けるように声を上げ、自分が戦っているように拳を繰り出す。中にはその熱気に当てられてか元々の酒癖か、服を脱ぎだす輩まで現われた。
    これが安い酒場ならまだ納得できただろう、だが非常に残念なことにこの場は紳士淑女が集うような由緒ある会場であり、ましてや喧嘩なんて過去一度としてありえない。その歴史を見事にぶち壊してくれた二人に、少し遠巻きに見ていた主催者ドイツは眉間の皺を深め、傍らにいる本日の主役、オーストリアは呆れて溜息を吐いた。



    始まりは世界会議室での何気ない会話だった。もうすぐオーストリアの誕生日ということで、ドイツが今年もパーティーを行うのか尋ねているところだった。あまり騒がしいのを好まないオーストリアは、基本的に深く関わりのある、所謂身内しか呼ばずパーティーと言ってもささやかなものだった。しかし、幾万年と生きてきた彼らにとっていくら誕生日は特別な日と言われても同じことを重ねれば年々それは薄れていく。今年は何もせずに閑かに過ごそうかと考えたとき、いつから聞いていたのかイタリアが割って入った。

    「今年は日本式でやろうよ」

    オーストリアの住む地方では普段は主役である者がパーティーを仕切るのだが、日本では主役がもてなされる立場にある。変化が無いから実行しないのであれば、イタリアの発言は良い提案だ。本人は特に考えもなく言ったのだろうが。
    話に乗ったのは意外なことにオーストリアだった。他国の文化を取り入れるのもおもしろそうだと言っているが、要は自分が用意する手間が省けるのがいいのだろう。お菓子や料理を作るのは嫌いではないが、やはり後片付けは億劫だ。ドイツも少し考えてその案に賛成した。前回のパーティーの時、指定された時間にオーストリアの家に向かったらまだ用意ができていないと理不尽な怒りを受けた覚えがある。マイペースすぎる主催者に合わせるぐらいなら自らが進行したほうが効率が良い。堅実な答えだ。そんな訳で一切を取り仕切る主催者はドイツに決まった。
    そこまではよかったのだが、ここは世界会議室、くせの強い人物が集う場だ。パーティーなんて面白そうなイベントを自称世界のヒーローが聞き逃すはずが無い。彼が騒げば世界に広まる、アメリカの監視役だから、世界のお兄さんが行かない訳にはいかない、友達だから当然だよね等々好き勝手な言い分を並べられ最終的には大所帯になってしまった。
    流石にドイツだけでは胃痛を悪化させる原因になるので他の国もサポートにつくが、それでも不安要素はなるべく少なくしていたい。やるからには徹底的に、ドイツの信条の下、一番に実行されたことは

    「兄さんには黙っていようと思う。」

    古くからの因縁かプロイセンはオーストリアに意味の無いちょっかいをかけてくる。三人で同居していたときはくだらない喧嘩の仲裁をよくしていたが、思えば仕掛けるのは常にプロイセンからだった。今回もオーストリア絡みとあっては必ず邪魔をしてくるだろう、そう予期して下した結論だった。勿論あくまでも準備期間中の話であって当日には参加してもらう予定だったのだが、誰が言ったのか仲間外れにされたと勘違いしたプロイセンが仕返しとばかりに当日を狙ってやってくれた。いつか仲良くなったダンス隊を引きつれての登場から始まりビール樽のシャワーや騒音擬いのリサイタル、終には一番のメインであるバースデーケーキを一人で平らげてしまった。そこでハンガリーの我慢が限界をむかえ冒頭に戻る。



    激戦を繰り広げる二人を見ていてオーストリアがあることに気付いた。さっきからプロイセンが自分を、正確にはオーストリアの頭少し上を頻りに気にしている。何だろうと目線を上にあげようとしたとき会場が息を飲んだ、プロイセンが自身が撒いたビールで滑ったのだ。透かさずハンガリーが大きくフライパンを振り上げる。命乞いの制止は鈍い殴打の音で掻き消された。









    「あー…死んだかと思った。」
    「自業自得ですよ、御馬鹿さん。」

    ベッドの上で俯せになりながらプロイセンが呟いた。頭には冷やしたタオルが置かれている。傍らにいたオーストリアが大げさに溜息を吐いた。
    あの後ハンガリーの勝利でパーティー自体も幕を閉じた。家が遠い者や帰れそうな状態でない者は部屋が割り当てられ各々泊まっている。後片付けは主催者の役目だからということでドイツと自国の文化の責任云々で日本、手伝いか邪魔かは分からないがイタリアが引き受けてくれた。しかし客人にばかり押し付けるのもどこか居心地が悪いらしく、オーストリアがプロイセンの看病を引き受けた。

    「全く、やる事が大人気ないですよ。少しは年相応に振る舞いなさい。」
    「うるせー。頭に響くから小言ばっか言うな。」

    枕に顔をうめて怠そうに手を振る。本当に失礼な態度だ、それが主役を前にする姿勢か、もっと言うべきことがあるだろう。ぽこっと湯気を出して怒りを表す、肝心の相手は見ていないが。すっかり意識を取り戻したプロイセンが今日のことにぶーぶーと文句をたれる、いじけているプロイセンは正直、面倒くさい。ドイツの気遣いだと説明しても素直に納得はしないだろう。誉めれば途端に機嫌が直るがそれはドイツの役目だ。オーストリアはプロイセンを誉めたことが無い。本人の前では、だが。
    目を覚ましたのなら自分の役目は終わりだ、オーストリアがドイツを呼んでこようと立ち上がろうとしたら手首を掴まれた。立つことはできても離してはくれなさそうなので大人しく座り直す。暫く間を置いてから今何時と訊かれた。

    「貴方の所為で日付が変わってしまいましたよ。おかげで散々な誕生日でした。」
    「俺がお前の生まれた日を祝うわけないだろ。ざまーみろ。」
    「…わかってますよ、そんなこと。」

    言われて納得した、ハンガリーから最後の一撃を食らう直前、プロイセンが気にしていたのは時計だ。日付が変わるまで騒ぎを起こし頃合いを見て逃げ出すつもりだったのだろう、結末は多少変わったが目的は果たされた。
    お得意の高笑いは枕に吸収されてくぐもってしまった。それでも憎たらしい笑い顔が想像できるから不愉快だ。はじめからプロイセンが自分の誕生日を祝福してくれるとは思っていないが、こうもはっきり宣言されると腹が立つ。我慢できずに言い返そうとしたら何かが投げて寄越された。受け取ろうとしたが咄嗟のことで反応できず額に当たって太股の間に落ちた。決してオーストリアが鈍いわけではない。はず。恥ずかしい失態を見られたとすぐにプロイセンを睨んだが、どうやら枕から顔を動かしていないらしい、うつ伏せのままだ。安心するとともに器用に投げるな、と感心する。
    間に落ちたものはきらりと光る石だった。気絶していたプロイセンを気遣って部屋の照明は落とし気味だがそれでも輝きは存在を主張していた。指で摘み上げるとリングがついていて一つの固体になっている。

    「……これは」
    「拾ったからやる。」
    「…お祝いはしてくださらないのにプレゼントはくださるんですね。」
    「拾ったって言ったろ。」
    「らしくないです。」
    「っだからあーもー文句があんなら返しやがれ」

    がばりと起き上がってプロイセンが掴んでいた手首を引いた。枕で隠していたが顔は彼の瞳と同じぐらい紅い。抵抗されるかと思いきや、オーストリアは大人しくプロイセンの懐に納まった。表情は一切変わらないが、どこか嬉しそうに見える。手に持つそれは護るよう丁寧に扱われて、それではまるで宝物だ。

    「ありがとうございます。」

    微かな、言われても気付かないような小さな声と綻んだ顔。オーストリアもらしくない、良い意味で。そう反論しようとしたがぎゅうぅと胸の辺りが熱くなる。言葉にできない衝動は彼に向けられて自分の胸に引き寄せた。そのまま誤魔化すように強引にベッドに押し倒す。オーストリアに託した拾い物は全てが終わってから改めてつけてやろう。密かにマリアツェルが形を変えた。
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