ノスタルジア 自慢の髪を傷めてしまわないように、乾かす時には気を遣う。
一日の仕事を終えて、疲れと汗を流した健十はふかふかのタオルに残った水分を吸わせながらリビングにやってきた。どうも騒がしいと思ったら、帰る頃には気にならない程度だった雨が本降りになっている。仕事が長引いてしまわなくて本当に良かった。
ドライヤーを手に取り、浴室以外では滅多に手放さない携帯を確認すると一件の通知。カラフルな絵文字が踊っているそのメッセージは、悠太が竜持のところに泊まるという旨を伝えていた。どうりで窓の外に反して部屋の中は静かだ。
コンセントをさしてソファに腰掛けたところで、視線が背もたれにかかったジャケットに奪われる。もう一人の同居人が今朝着ていたものだろう。
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