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    ひとねむり

    竹くく 勘くく
    小説

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    ひとねむり

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    竹くくワンドロワンライさんのお題「予行練習」
    竹谷くんのプロポーズ大作戦
    ワンライのくせに2時間くらいかけちゃったからボツッたけど、やっぱり竹くくは結婚して欲しい

    #竹くくワンドロワンライ
    #竹くく

    予行練習 色々と考えてはいたのだ。一応。ちゃんと。たくさん。

     あ、プロポーズしないと、って思ったのは、確か、1ヶ月くらい前だった。おはようって挨拶から始まる一日とか、お互い眠気を残しながら朝ごはん食べて、時には食べなくて、出勤前のささやかな会話からなんとなく体調を推し図って、仕事中でも夕飯の買い出しのこととか何でもない話で連絡を取り合って、家に帰ってただいま、おかえりと言ったり、言われ合ったりして、寝るまでの間、家事をしながら話したり、お互い好きなことをしてたり、思い思いに過ごして、色んな隙間でちゅーしたり、セックスしたりして、おやすみ、で終わる一日が、あんまりにも日常になった頃、思った。あ、プロポーズ、ちゃんとしないとって。
     別に形だけでもっていう話ではなく、法に対する抗いとかでもなくて、紆余曲折を経てようやく恋人になれた始まりとか、ワクワクドキドキと甘酸っぱかった日々とか、それでも喧嘩をして気まずくて別れというものを感じてしまった時とか、そんなのを繰り返しながらすっかりと日常となった毎日の安穏は、二人で築き上げたものだから、惰性じゃなくて、ちゃんとけじめをつけて守っていこうって。あと、単純に、兵助は喜んでくれそうだって思った。色んな方面に対して無自覚に天然なくせして、俺との関係に対して未だ引け目を感じては、それが喧嘩の原因になったことだってあったのだから、きっと兵助は喜んでくれると思ったし、いい加減図太く堂々と、俺の気持ちというものを信じて欲しいと思ったのだった。

     そうと決めてから、八左ヱ門は色々とプロポーズ大作戦を考えだした。ワクワクした。ベタに花束。うーん、でも花の世話とかあるし。意外とあれは面倒なのだ。そもそもうちには花瓶がないし。豆腐なら確実に喜ぶけど、却下。却下却下。質実剛健なのは良いことではあるけれど、プロポーズに関してはロマンティックに決めさせて欲しい。となると、指輪。婚約指輪。ベタだけど、ベタ故に覚悟も定まるものだ。お金が、なんて文句くらいは言われそうだけど、でも兵助はきっと喜ぶ。なんだかんだと嬉しがる。お揃いとか、兵助が奪ってしまったらしい俺の未来とかいうものを、だからこそベタな形で示されると、多分すごく喜ぶ。喜んで欲しい。引け目とか感じずに、兵助だって覚悟をするべきなのだ。添い遂げて、幸せにさせてやるっていう覚悟。うん、やっぱ指輪が良い。買おう。指輪。そう思って下見に行く。色々あった。たくさんあった。予算は決めれども、物は決めかねた。パートナーの方の拘りがあると難しいですね、って愛想の良い店員さんが相談に乗ってくれる。多分ない。兵助はなさそう。俺だってない。いや、ないって思ってたけど、いざとなると目移りしてしまう。あれもこれも、全部似合う気がする。うんうんと唸っては、思考が停止してしまうから、また来ます、と悩んでいる最中だ。場所はどうしよう。ロマンティックが良い。夜景の見えるレストラン? 正直腰が引けるし落ち着かない。朝焼けか夕焼けの海? 俺は良いけど、意外と兵助は朝に弱いし、出不精なところもある。うーん。いつも散歩してる公園とか。案外と百選とかに選ばれている県営の公園で、広くて、景色が良くて好きなのだ。花壇は花もいっぱいあるし、時間と日付を選べば人混みも避けれるし、良いかもしれない。そう決めてからは下調べをした。兵助は土日休みだから。この時間は人が多い。あの辺は意外と人の目線が避けられる。花が綺麗。この時間は、夕焼けがよく見える。うん。良い感じ。言葉は、なんて言おう。「結婚してください」「ずっと一緒にいよう」「ずっともっと好きになった」「幸せにしたい」……色々と検索をして誠意のある言葉を探っていく。なんだか気恥ずかしい。本音ではあるのは間違いないけれど。なんていうか、臭い。似合わない……、なんて言ってられるか!! ちゃんと言え!! 俺からちゃんと言うんだよ!! 兵助に永遠の自信をつけさせたい!! ちゃんと八左ヱ門のパートナーですって堂々と思ってて欲しい!! 好きだ! 大好きだ!! ずっと一緒にいよう!! 幸せになろう!!
     そうやって決めていった。格好良く見えるように、失敗しないように、脳内で予行練習を何度か繰り広げて実際に散歩と呈してその場所に行って練習する。安穏となった日常、兵助の不安と、だけど有り余る好意をしみじみ感じていれば、脳内の兵助はそれはもう可愛く、嬉しそうに笑って、ちょっと泣く。可愛い。指輪はまだ決めれない。悩んでしまいますよね、パートナーさんには内緒ですか、と店員さんは相変わらず優しい。いい加減に決めなければ、と思いつつ、一生物と思うと、なかなかどうして自分にも優柔不断なところがあるのだと知っていく。
     兎にも角にも、順調だった。
     予定外の繁忙期さえ、来なければ。

    「八左ヱ門、大丈夫?」
    「う〜……、平気平気。ちゅーして」

     疲れている時に甘えられる相手がいるのは、八左ヱ門としてはすごく嬉しいことだった。これもまたプロポーズしないとって思えた要因の一つだって今更ながら思えたくらい。朝っぱらから甘えてくる己を、兵助は突き飛ばすことなく心配そうに窺いながら、要望通りちゅーしてくれた。嬉しい! 頑張れる!!

    「今日ケリつけれそうならそのまま残ってくかも。土日休むんだー」
    「無理するなよ。昨日だって遅かった」
    「兵助の寝顔可愛かったー」
    「起こせよ」
    「本当大丈夫。もう少しだし。終わったらご馳走食べよ」
    「……無理しないで」

     心配そうに言う兵助はまたちゅーしてくれた。嬉しい。ますます頑張れる。本当に。だって終われば、プロポーズだって待ってるし!! そう思って、八左ヱ門としては浮かれ気分で兵助に行ってきますを言った。兵助は未だ心配そうにしているが、目処がつきそうな八左ヱ門の言葉を頼りにすることにしたのだろう。微かに笑いながら見送ってくれた。
     繁忙期。こればっかりは仕方がない。普段安定しているといっても、職員の体調不良だったり業務の内容や量は一律には読めないものだ。今回は3人の職員がたまたま運悪く体調不良が重なった。分散していたタスクは再度振り分けられてこの有様だ。残ってまで仕事をする必要はない。でも八左ヱ門は土日休みたいし、兵助とイチャイチャしたいし、プロポーズの練習だってしたいしで、だからそうする。
     実際にそうした。
     メールでポツリと送られる兵助からの連絡が愛しい。『ちょっとは仮眠とれよ』『ご飯食べろよ』『頑張って』
    「結婚したい」
     なんかもう普通にそう思った。
     結婚しないと。今すぐ。今日。兵助と結婚する!!
     結婚しなさい、と朝日もそう言っていた。あんまりにも眩しい。溶けそうだった。あんまりにも眩しくて明るく照らしてくる朝日は、今日が良い日であるだろうことを告げていた。確信を得た。現に仕事は終わった。よし、帰ろう。帰って、でも、その前に。

    「あら? 竹谷さん、とうとう指輪をお決めに?」
    「はい。もう絶対これ。これですよ。いや何でも似合うって困りますね。何でも似合いますもん。でもこの指輪がいいって言ってる。指輪が言ってる」
    「あら〜、ちょっと竹谷さん格好よくなっちゃって。お支払いは?」
    「カードで一括で! あ! 箱いらないです! 畏まったの気後れしそうで!! ていうかこれなら突っ返せなくないですか? 絶対結婚するんで。断られるとか思ってないけど、絶対結婚したいから」
    「あら竹谷さん確信犯〜」

     ふふふ、と笑う店員さんはやっぱり良い人だった。ここで選んで正解だった。ありがとう店員さん。でも大好きなのは兵助なんです。どうぞ〜、と差し出されたペアのケースも何もない指輪を掴む。さすがに直で触れるのに怯む気持ちが湧きつつも、それでも勇む気持ちのが強かった。スーツの内ポケットに入れて、上からちょっと抑える。大丈夫だ。無くすものか。
     ありがとうございました、と頭を下げ合って、八左ヱ門は家に向かう。タクシーに乗った。無駄使い! って怒られそうだ。でも気が急いてしまう。必要経費だ。仕方ない。休日の割には混んでいなかった道。ソワソワして、脳内はプロポーズされて嬉しそうな兵助を妄想していたら、案外とすぐに着いた。それだけでやっぱり世界から祝福されているような気がした。徹夜の頭は、冴えている。人間は狂ってるくらいでちょうど良い日がある。それは、兵助が告白してくれた日のように。だから、ますます今日しかないって思った。
     プロポーズしないとって思う。今度はちゃんと、俺から。

    「ただいま兵助!!」

     うるさくリビングに行けば、ハッとした兵助がいた。エプロンを着けたまま、ご飯を食べていた。あまり進んではいない。兵助はどちらかと言えば朝が弱い。本当は休みの日は寝ていたいって思ってる。それでも八左ヱ門に合わせて起きてくれる、ご飯を一緒に食べる。それが培った二人の生活。
     ハッとこっちを見た兵助は、ほっとしたように、嬉しそうに笑う。

    「お帰り」

     東に面した窓から、すっかり登った太陽でキラキラ部屋が輝く。太陽の光を浴びて、兵助はキラキラしてた。綺麗だった。いつも綺麗なのに。可愛いのに。もっと綺麗で、可愛い。
     今日は、良い日になりそうだった。暖かくて、明るくて。そうだ、プロポーズするのは、人に好きって伝えるには、幸せになるにはこんな日が、相応しい。

    「兵助。結婚してください」
    「……へ?」
    「指輪、買ってきた。な、嵌めていい? 嵌めよ。似合う。絶対似合う。ほら似合う!! 兵助のための指輪!! さすが恋人何年もやってると分かるもんだって!!」
    「う? へ? え? ……え?」
    「な。結婚!! 結婚しよ!! 兵助いつも綺麗だけど今日はもっと綺麗!! ずっと綺麗!! 俺ずっと兵助を綺麗にさせてあげたい!! 幸せにさせてあげたい!! 俺のことが好きだーって顔して、迎えてほしい!! ケジメつけたい!! 兵助が好きだから!! だから結婚してください!!」
    「うえ、え、え、え」
    「え、だめ!?」
    「いいに決まってるけど!!」

     八左ヱ門が勝手に嵌めた指輪をサッと隠した兵助は、今度はギュッと握ってはぼんやりと眺めて、だけど焦ったように「い、いつの間に」「こんなの買って、」「え、買ってくれたの、」と呟いては、結局じんと噛み締めるように握り込んで、言葉にならないような思いを堪えて八左ヱ門を見つめてくる。それは何よりものプロポーズの確信になって、八左ヱ門も堪えきれずに嬉しさに舞い上がると同時に、グッと眠気が襲ってきてしまう。

    「あー……良かった。良かった、兵助がいいって言ってくれてー」
    「……さ、最近、色々、考えてた、だろ」
    「え? もしかしてバレてた?」
    「う、うーん。そうだったら、いいなぁ、とか」
    「えー。バレてたの悔しいけどそこは自信持てって。もー、俺、これでもめっちゃ予行練習したんだってば」
    「あの、えっと、公園、な」
    「……そこまでバレてる? 俺めっちゃ恥ずかしいじゃん」
    「嬉しいよ」
    「格好よく決めたかった」
    「八左ヱ門はいつも格好良い」
    「……兵助は今日まじで綺麗。俺、徹夜だけど絶対それだけじゃない。何もう、可愛い」
    「そりゃ、もう、八左ヱ門のこと、好き、だから」
    「……じゃーずっと綺麗でいてもらわないとな。な、兵助」
    「うん」
    「結婚してください」
    「……はい」

     兵助が固く握り込んでいた左手は、握ればスッと解けて繋ぎ合わせられた。
     改めて告げたプロポーズの言葉、脳内で幾度想像した練習よりも、ずっと可愛く綺麗に、でも嬉しそうに、泣きそうに笑う兵助がいた。
     キラキラと太陽は部屋の中を照らしていて、暖かくて明るい日。幸せになるのに、好きな人に好きというのに相応しい日。それは練習よりもずっと良い、幸せな光景に思えて、徹夜明けの妙に冴えては微睡を覚えた頭の中でも、永遠に焼き付いて忘れることのない感動を覚えて、八左ヱ門もちょっとだけ、泣きそうになったのだった。
     
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