「ねぇ、見せたいものってなに?」
「いいから、待ってろって」
さっきから何を聞いてもこればっかりだ。年越しは私の家でゆっくりするつもりでいたのに、急にタケが「いくぞ!」って外に連れ出してきて、私は辛うじて上着だけ羽織って手を引かれるがままになっていた。タケの魔法で移動して、少し歩いてを繰り返してどこかも知らない山の上にいた。寒いだろってすっぽりとマントの中に入れられて、抱きしめられてるおかげであったかくはあるけど誰のせいだと思ってるんだか。
「も~ちょっとだな」
「だからなにが? ていうか、今何時?」
「目つぶれ」
他愛ない話の合間にもタケは時計をチラチラと見てて、明らかに年越しの瞬間を気にしてるんだう。ただ何を待っているのか、なんにも教えてくれないせいで私はただ何をしようとしているか聞くことしか出来ない。あとどれくらいかと時計をのぞき込もうとすると、これまた唐突なことを言われるがもうここまできたらとことん付き合ってやろうかと思い瞼を伏せる。
「いくぞ」
暗闇の中、タケの声が耳元で聞こえてきた。そして一瞬の浮遊感。この感覚は知ってる、タケの魔法だ。またどこかに移動したんだろうか? そう考えるまでもなく、いつまでたっても無くならない浮遊感に違和感を覚えた。浮遊感っていうか、地に足がつかないっていうか、これ、落ちてない!?
「ぎゃあああああああ!?」
「うるせぇ!!」
明らかに高速で落下している感覚に悲鳴をあげる。目を開けるのも怖くて、タケにしがみつく。寒い! 風をきる音がるさい! 最悪!! 最悪さいあく! 最悪の年越しなんだけど!
「おい!! 目あけろ!!」
「無理無理無理無理!? どこ!? なにが起きてんの!? マジでなに!!」
「いいから!! 俺を信じろって!!」
耳元で絶叫するタケの声に負けじと叫び返す。タケの言葉とギュ、と強く肩を抱かれたのに少し落ち着いて、ついに、私は恐る恐る目を開く。
「わ……」
目の前には大きくて白い満月。落ちてることも、恐怖も忘れて、ついため息が漏れる。
「年越す瞬間によぉ~! 俺たちが一番お月さんに近ぇってよ~~!! なんかよくね!!」
「はぁ!? そんなことのために!?」
「でもきれ~~~~だろ!!」
なにそれ!? 〇時〇分〇秒にジャンプして地球にいなかったみたいな、子供みたいなことを言い出すのでびっくりする。でも確かに、いつもより近くて、眩しいくらいに感じるお月様はすごく綺麗だ。
「お前に見せたかったんだよ」
でもそれ以上に、月を背負い柔らかく微笑みながら私を見つめてくるタケは綺麗だった。
どうかこの月が、欠けることも、沈むこともありませんように。
「ね~~!! これ着地はどうすんの!?」
「知らねえ!!」