Helianthus 近く、遠く。蝉の声を聴く。
聴き慣れたミーンミーンとでも聴こえるようなあの音ではない。形容しがたい、聴き慣れない声。
造詣のある人間であれば、鳴き声から種類を特定できるかもしれないが、生憎と興味も知識もない。
暑い。
歩きながら、村雨は流れる動作でスマートフォンを取り出した。手に触れた端末は心なしか熱を持っているように感じ、一瞬、躊躇う。
これを、耳に当てる?顔に近づける?
ハンズフリー……と思うが、イヤフォンは手元にない。人通りの少ない田舎道とは言え、恋人の声を道行く者どもに無料視聴させてやるつもりもない。
暑い。
メッセージアプリを起動し、相手を選択して通話ボタンを押す。繋がるのには、おそらく5秒も要しなかった。
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