舞台を踏む話舞台を踏む話。ひなの
一度は降りた場所だった。もう上がることはない、舞台袖から見るスポットライトを眩しく思うこともないと思っていたのに。
「マイクの音確認するので自分のマイク確認してくださいねえ。充電不足のオレンジのランプついたら教えてくださいよ」
係員に伝言を頼まれた反郷の声が響く。各々に割り振られたマイクを手にしながら、充電ランプと音の入り確認を脊髄反射のように行う。
あの頃は手持ちマイクじゃなかったな。耳から顔に沿うようにつけるマイクを懐かしく思いながら手の中のマイクを握りしめた。
このサイズの箱なら響く声はこれくらい。照明の位置、音響の場所。舞台袖のあれこれと小物が積みあがっている狭さの中に埃っぽさを感じて意味もなく安心した。
1912