「へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ」
シュメイ、という三音を意味あることばとして認識するのに数秒がかかった。主命。主の下す命。刀剣男士にとって主とはすなわち審神者であり、かれの言う主命とは私の下す命令だ。しかし――。
「ようこそ、この本丸へ。えっと、だね……」
挨拶の間にどうにか態度を取り繕おうと試みたが、その足掻きはあっけなく徒労に終わった。目の前に佇む男の眉間に、疑念と不安を綯い交ぜにした皺が寄る。
「どうかなさいましたか」
そのことばには、私への配慮と自らの振る舞いへの反省と、その両方が同等に含まれていた。ひとまず、後者は打ち消さねばならない。
「いや、あまりに丁重に接してくれるものだから驚いただけだよ。気にしなくていい」
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