暗い森の中に子犬の鳴き声が小さく響く。クーン、クーン、と寂しそうに鳴く子犬の傍には、深緑のローブを羽織った男が倒れている。
近くには急な斜面があり、ついさっきまでその斜面の上にいた。男は十分気をつけて歩いていたつもりだったが、薄暗くなってきて焦ったせいか、足を踏み外して滑落してしまったのだ。
「バキン……」
弱々しい声で男が子犬の名を呼んだ。薄く開いた瞳が月の光を受けて微かに輝く。バキンと呼ばれた子犬は、心配そうに男の頬を小さな舌で舐めた。
「大丈夫だ……」
しかしその言葉とは反対に、男の呼吸は苦しそうだった。
落ちる時、男は小さなバキンの体を抱きしめて守ってくれた。そのおかげでバキンは無傷だった。男だけが怪我を負った。
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