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    na_7ki

    @na_7ki

    短めのえちやつとか、支部に上げる予定のお話をちょっとアップする所。

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    na_7ki

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    ファンタジーっぽい仗露

     暗い森の中に子犬の鳴き声が小さく響く。クーン、クーン、と寂しそうに鳴く子犬の傍には、深緑のローブを羽織った男が倒れている。
     近くには急な斜面があり、ついさっきまでその斜面の上にいた。男は十分気をつけて歩いていたつもりだったが、薄暗くなってきて焦ったせいか、足を踏み外して滑落してしまったのだ。
    「バキン……」
     弱々しい声で男が子犬の名を呼んだ。薄く開いた瞳が月の光を受けて微かに輝く。バキンと呼ばれた子犬は、心配そうに男の頬を小さな舌で舐めた。
    「大丈夫だ……」
     しかしその言葉とは反対に、男の呼吸は苦しそうだった。
     落ちる時、男は小さなバキンの体を抱きしめて守ってくれた。そのおかげでバキンは無傷だった。男だけが怪我を負った。
    「キューン」
     大丈夫? そう問いかけるように、か細い声でバキンが鳴く。男は目を閉じていた。
     ロハン。あるいは、ロハン先生。
     男がそう呼ばれているのをバキンは知っていた。
    「キャウン」
     呼びかけてみても、返事はなかった。いつも優しく頭を撫でてくれる手は、ぴくりとも動かない。それでも、呼び続けたら起きるかもしれない。夜の帳が下りた森の中で、バキンはしばらく鳴き続けた。


       ◇


     この世界は複雑だ。魔法も呪いも超能力も存在する。
     そして、それらとはまた異なる、たった一人にしか使えない唯一無二の能力も存在する。
     これを「スタンド」といい、この能力を持つ者は「スタンド使い」と呼ばれる。


    「帰ったら怒られるかなぁ」
     馬の上で仗助は呟いた。
     隣町で知り合いが営んでいる時計屋からの帰り道だった。壊れた時計を直してほしいと頼まれたのだ。
     持ち主は先代からの馴染み客で、その時計をとても大切にしていたらしい。ところが、修理しようにも型が古くて部品がどうしても手に入らない。何とかして直してやりたい。そこで、スタンド使いである仗助が呼ばれた。
     仗助のスタンドは、人や動物の怪我、あるいは壊れたものを「なおす」力を持つ。このスタンドを使って人助けをするのが仗助の仕事だった。
     時計屋の店主とその夫人がお礼にと夕食を振る舞ってくれて、ありがたく頂いていたら帰りが遅くなった。夫婦は泊まっていけばいいと言ってくれたが、仗助はそれを断った。明日は朝早くから用事があるのだ。
     馬に跨った仗助は夫婦に見送られて帰路についた。
     今夜は月が明るい。
     整備された道は月明かりが照らしてくれるから視界がいい。だが遠回りだ。
    「近道するか」
     途中の分かれ道を左に曲がり、森の中に足を踏み入れた。
     夜に森に入るなと子どもの頃から言われていたが、仗助はもう十六歳。大人から見ればまだまだ子どもだが、本人はもう子どもではないと思っていた。体も大きくなったし、力も強くなった。何よりスタンド能力を身につけている。ある程度の危険には対処できる自信があった。
     夜行性の獣が潜んでいるかもしれない。魔法が存在する以上、普通の獣ではない、魔物の類も存在する。
     森の中を進むにつれてどんどん暗くなり、仗助は馬の手綱を握り直した。
     ふと、小さな鳴き声を聞いた。
    「何だ……?」
     キューン、キューンという、か細い鳴き声。小さな獣……まるで子犬のような声だ。森の中に子犬がいるのか。狼の子どもかもしれない。となると、親も近くにいる可能性が高い。
     仗助は大きな音を立てないように気をつけながら進んだ。気づかれないうちに通り過ぎてしまおう。そう思っていたのに、運の悪いことにその鳴き声の主に近づいているような気がする。声が近くなる。
     少し開けた場所に出た。そこだけ月明かりが優しく照らしている。
    「キューン……」
     ものすごく小さな獣の影が見えた。片手で抱き上げてしまえるくらい小さなそれは、どうやら野生の狼ではなく、飼われている子犬のようだ。
    「キャン!」
     こちらに気づいたのか、突然その子犬が吠えた。仗助は驚き、思わず「うわっ」と声を上げてしまう。
     キャンキャンと吠える子犬は、威嚇しているというより仗助を呼んでいるようだった。
     子犬のそばに、何かがある。月明かりに照らされた深緑色のその塊が、ローブを羽織った人間だと気づくのに時間はかからなかった。
    「おい! あんた大丈夫かよ!?」
     馬から降りて駆け寄る。呼びかけても反応がない。しかし息はある。
     子犬は吠えるのをやめて、また「キューン」と小さく鳴いた。倒れている人物を心配そうに見つめている。
    「お前のご主人なんだな」
     若い男だった。仗助より少しばかり年上に見える。ギザギザした形のヘアバンドを付けていて、金色の耳飾りが微かに輝いていた。
     辺りを見回すと、すぐ近くの斜面に生えている草木が不自然に折れている。この上から滑り落ちたのか。だとしたら怪我をしているかもしれない。
    「クレイジー・ダイヤモンド」
     それが仗助のスタンドの名前だった。倒れた男の体が、ほんの数秒間だけ光に包まれる。光が消えた後、ついさっきまで苦しそうだった男の表情は穏やかなものに変わっていた。顔にできた擦り傷も消えている。
     怪我は治ったが、このまま放置するわけにはいかない。仗助はクレイジー・ダイヤモンドを顕現させた。水色とピンクの、戦士のような姿をしたスタンドは、倒れていた男の体を軽々と持ち上げる。もちろん子犬も一緒に。先に馬に跨った仗助と協力して男と子犬を馬に乗せると、スタンドはふっと姿を消した。
    「落っこちるなよ」
     男のローブに包まって顔だけ出した子犬に話しかけると、子犬は返事をするように「キャン」と鳴いた。
     冷え切った男の体を抱えて、仗助は家路を急いだ。
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