政婚5話「そういえば、昨夜はありがとう。クロリンデ」
オートミールを食べながら、フリーナが思い出したように笑いかけた。クロリンデは何のことか分からずに困惑しながら問いかける。
「何のことでしょうか?」
「昨日の夜、僕の様子を見に来てくれただろう?それで『欲しいものはないか?』って聞いてくれたじゃないか」
「失礼ですが、誰かとお間違えでは?」
「ええ!?そんなはず……」
ない、と言いかけてフリーナは口を噤んだ。脳裏に浮かんだのは、節くれ立った冷たい手、あれは、女性の手というよりは男性の手――つまり、僕の旦那様であるヌヴィレットの手だったのではないか、と。
今にして思えば、一介の使用人が仕えるべき相手に欲しい物を問うことはあり得ない。主人の命令に従うのが彼ら彼女らの使命であり、進言などは以ての外だと義理の家族はよく言っていた。だとしたら、やはり、欲しいものを尋ねるのは不自然だ。
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