災い転じて福となす「足を運ばせてしまって悪かったね」
ヌヴィレットの手から書類をひったくったフリーナは、にこにこと笑った――未だ、ネグリジェ姿のままで。
ヌヴィレットは辺りを見回す。一日中、太陽を隠し続けた灰色の雲は雫をしとしとと降らせ、家路を急ぐ者たちの足を鈍らせている。次いで、懐から懐中時計を取り出して時間を確認すれば、針は午後の五時を少し過ぎた頃だった。
「それは構わないが……」
ヌヴィレットはフリーナの服に視線を移す。
薄手のネグリジェには無数の細かな皺が刻まれている。
それも、ついさっき付けられたようなものではなく、時間をかけて念入りに付けられたものだ。
肩にかけられただけの袖を通されていないカーディガンも今の時期に着るには不適切と言えた。フォンテーヌの気温はほぼ一定とはいえ、それはあくまでも昼間の話であり、雨季の時期の朝晩は冷え込む日も少なくない。それを知らない彼女ではないであろうに。
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