士の休息 人の手により作り出された死神は、人の手により解体された。
しかし、栄華を誇るほどに濃くなる倫敦の闇に潜むものはそれ
だけではなかった。
あの極秘裁判からしばらく経っても警察・法曹の混乱は収まらず、
誰が味方で敵なのか、安易に判断ができない。
昨日の味方が今日の敵、ということもある。
心より信頼している親友を故郷へと送った今、亜双義にとって
決して自分を裏切らず、かつ自分も裏切らないと確信できる相手は
バロック・バンジークスのみであった。
(ミスワトソンのような、年若い女性はあくまで庇護対象であるし、
あの名探偵とはまだ個人的な信頼関係を結ぶには至っていない)
だから、彼といる時に少し気が緩んでしまったとしても仕方ない。
1650