わがままを言わせて書斎の扉をノックする音が響く。
バンジークスが入室を促すと、扉を開けて亜双義が入ってきた。
手に一冊の本を抱えている。
「こちら、お返しします。ありがとうございました」
部屋の奥、主人用のデスクに座るバンジークスの元までくると、その本を差し出し丁寧に礼を述べた。
「役に立っただろうか」
「ええ、とても。手書きの注釈は、貴公が?」
亜双義が検事を目指すと宣言した際、最初に渡されたのがこの本だった。
基礎となる知識が、比較的平易な言葉でまとめられている。
それでも出てくる専門用語や解釈の難しい一説などには必ず赤インキで注釈が添えられていた。
本文より分かりやすい解説であったり、凡例を用いて理解を促したり、
まるで暗い道の足元を照らすランタンのようなそれに導かれ、初歩を進み始めることができた。
1997