埋み火某月 某日 某時刻 バンジークス検事の執務室
此度扱う事件の報告書を読んでいるバンジークスの眉間のシワが、みるみる深くなっていく。
「そんなに難しい事件なのか?」
その様子を見て、いぶかしげに亜双義が問う。
バンジークスは報告書に記載された、被害者と加害者の関係の項目を指さした。
元交際相手と記されている。
「痴情のもつれ、というやつか?」
亜双義が重ねて問う。
「そう見なされる事件の場合、弁護士が何かと”愛”を持ち出す。
そのたび客観的な事実と証拠で検証するわけだが……骨が折れる」
これまでの判例の数々が脳裏によぎっているのだろう。うんざりだという風に、頭を横に振った。
「なるほど。陪審員が流されぬよう、揺るぎのない証拠が必要だな」
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