星の海を渡れども 流れる暗闇の中、点々と燦めく星々を眺める日々も、早数ヶ月が過ぎてしまったような気がする。ガラスに隔たれた後部デッキに凭れ、タバコの煙を燻らせながら、私は暗黒の宇宙空間を眺めていた。
「また此処にいらしたんですね」
この汽車の車掌が静かにドアを開けて私に微笑みかける。出逢ったその夜に浮かべた微笑みと変わらないその微笑みで。
「だって、この汽車に乗ってやる事と言えば外を眺めるか乗客か貴方と話す位のものじゃない」
そう返せば、彼は確かにそうですね。と一人頷く。そんなやりとりももう数え切れない程だ。初めて出逢ったその夜から。
「お迎えに上がりました、どうぞ、お乗りください」
いつもと変わらず仕事を終えて会社を出た所にその汽車はやってきた。その頃の私は人の声が駄目で、声に被さるように鳴り響く耳鳴りに悩まされて居たのだけれど、何処の会社のものかも分からない車掌服に身を包んだ彼の声はその耳鳴りを起こすことは無かったのだ。
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