餌付けはさせるもの「吉丸ちゃん、手、血」
ぷっくりと滲み出る赤色。マメが何度もできては潰れて、皮の厚くなった掌に少しばかりの傷が入っている。
「――あっ…マジか!クソー…オイ雉、お前絆創膏持ってねえか?丁度切らしてんだ」
左手の人差し指を眺めながら、吉丸は目を細める。怪我には慣れているとはいえ、痛いものは痛い。隣にいる雉に目をくれてやることもなく尋ねた。
「…持ってない、ヨン」
「そーかそーか、ソーデスヨネ、山の皇帝は怪我なんかしないデスヨネー」
「昔はいっぱいしてたよ?」
「ガキん頃だろどうせ」
吉丸は眉こそ顰めているが、少し口角は上がっている。雉の幼い頃は知らない。写真でさえも見たことがない。だが、ふと中学の頃の雉の顔を思い浮かべる。あの頃の幼気な顔つきを、更に幼くして、鼻にでも絆創膏を貼り付けて…。そんな吉丸の頭の中に描かれたかつての雉弓射は、空想でしかないがとても愛らしく思えた。
2716