北村から酒席の誘いを受けた時、清澄は二つ返事で了承した。清澄は、北村のことを慕っていた。薄く淡く積み上げた恋心は、今ではもう濃く深い。
個室で彼らは向かい合って座った。個室と言っても入り口は暖簾で、防音ではない。さわさわと店内の音が聞こえる。運ばれて来た小料理を肴に、話は弾み酒は進んだ。仄暗い照明が二人を照らしていた。
「私のどこがダメだったの!!答えてよ!!」
突然の大声に、二人は固まった。
「そういうところだよ!今までどうもありがとうございました!とっても楽しかったよ!!」
「ねえ!待ってよ!」
暖簾の下から、大股歩きの男性とそれを追う女性が見えた。
「……びっくりしたねー」
「痴話喧嘩、というものでしょうか」
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