険阻不穏な日常 00-EX03:言わない二人と見ない二人「昨日はスカルがまた迷惑かけたみたいで」
店に入るなり、そう言ってリングは頭を下げた。昼をとうに過ぎ、客のいない店内は静かだ。カウンターから上半身を反らしてそれを確認したウィンドは、手のおたまで自身の前を指し示す。大人しく椅子に座ったリングは、コンロの前へと戻っていったウィンドの背中を眺めていた。流れるような調理過程は、それだけで見世物として成立している。切って火を通す程度のことしかできないリングからすれば、舞台上の手品と大差がない。店内に他の客はいないので、今ウィンドが作っているのはデリバリー用なのだろう。このビルに詰まっているのはほぼ全て世間様から隠さないといけないようなものだが、だからこそあまりにも普通に、現代に適合した中華飯店として営業している。
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