ほぞを噛む ────ヒーローが、いつでもピンチに駆け付けるとは限らない。
「…………。あー」
遅かったか。
崩れかけたビルの奥、蹴破った扉の向こうにはがたがたと震えながらも必死で構える術師がいた。見覚えはない。準一級だと聞いている。足元には、数度見かけた覚えのある一級呪術師。血塗れでうつ伏せて、ぴくりとも動かない。
術式を構えたまま放つことも出来ないでいる男の肩を、ぽん、と軽く叩いた。それでなくとも血と泥で汚れた汚い顔がぐしゃりと歪んで、塩辛い水でどろどろになる。
崩れ落ち、丸く小さく床に伏せた体から、獣の咆哮が聞こえた。絶望と怨嗟で濁る呪詛の行く当ては、最早何処にもない。仇ならばこの手が討ち果たした。喪った命もまた、返ることはない。
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