「ハハハッ! もう逃げられねえぞ、『仮面の詐欺師』ィ!!」
私の通り名を叫ぶ下卑た声が、狭い倉庫の中に響く。私は紙袋を抱えたままゆっくりと振り返った。喜々として銃をこちらに向けるその男には見覚えがある。つい先日襲撃した組織の、次期ボス候補だった一人だ。中でも一際罪科の多い下衆だったと記憶している。その背景だけでどうしてこんな蛮行に至ったのか想像がつき、その短絡ぶりにため息が出た。確かにあの組織は頭とその側近、そして実働部隊の一部を潰したのみで、手足はまだ残っている。頭以外大したことのない烏合の衆だったから、その他は一旦捨て置き確実な弱体化を狙ったのだが。言い換えればこの状況は、ボス候補の一角だった男が取って代わろうとするにはむしろ好都合なのだろう。
4754