あぁ、紺青の神に捧げる御霊の茜空「俺の一生は、彼女と彼女の弟のために生きるのだと決めた瞬間がある」
九井一はあの日から、あの冬の日から業火の海に取り残されている。
消防車の呻き声と、目の前で蠢き経つ赤を纏った親友と好きな人が暮らす家。それが、九井一の脳裏に焼き付いて離れてはくれない。
あの日、もしも自分が彼を助けていたのなら、世界は一体どう変わっていたのだろうか。
そう考えるだけで何かに押しつぶされそうな感覚に陥る。目の前の鏡に映る、味気ない自分の顔を見ながら、九井はこんな幸せな日すら笑えない自身の不器用さに嫌気をさした。
ーーーコンコン
「はい」
「花嫁の準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
「あぁ……、ありがとうございます」
そう言って椅子から立ち上がり、スーツを着込んだ女性の後ろを着いていく。目の前の大きな扉を開けたその先に、初恋の女性が俺と同じく不器用な顔で笑って俺の名前を呼んだ。
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