【サンプル】子守唄は届かない Ⅰ
「混沌なる世に終止符を打たん……!」
静かに響き渡るクレイ・シスの祈りと歌声。漂っていた意識が輪郭を持ちはじめ、身体の隅々まで血が巡る。
——ああ、呼ばれたんだ。
そう思った瞬間、僕を形作る全てがこの世界に根付く。そして、瞼をそっと開いた。
目の前に広がるのは荒れ果てた石造りの部屋、召喚の遺跡だろう。クレイ・シス、ヒロナが消えた後、その場に残ったのは双子の姉の破壊者ルカともう一人の男だった。大きな剣を背負い、長い髪を靡かせている目つきの悪い男だ。この人が僕たちを呼び出したんだろうか。
「ゲホッゲホッ」
あまりの空気の悪さに思わず咳き込む。
「コホッ。随分と空気の悪いところね、それに暗いわ。あなたが私たちを呼んだのかしら?」
5205