おあいこ 前髪のあわいから指を差し込まれ、毛先を指が撫でる。肉刺の目立つ指はこめかみをなぞって、耳にかかった髪を払った。
「あんだよ、生駒ァ」
たまらず眼鏡越しに生駒を睨みつけ、文句を言う。一旦手は離れたものの、生駒はいつも通りの表情で少し口だけを歪めた。
「いやー、ギャップずるいなあ思うて」
あっけらかんと宣う生駒の言葉に、勿論心当たりはない。弓場は卓上に置かれたマグに指を引っかけて、一口含む。
「何の話だ」
そう弓場が問いかけても生駒は答える気がないのか、鼻歌混じりに白米の上にかけるふりかけを選び始めた。何事にも常に楽しそうなのが生駒の美点だが、食事中は食器の当たる音すらなく、いやに行儀よく美しく食事を行うことを知っている。弓場は低血圧のきらいがあり朝はあまり得意ではないが、こうしてどちらかの家に泊まる次の日の朝は、生駒ほどとは言わないが軽めの朝食くらいは口にするようにしていた。そうすると生駒が分かりやすく嬉しそうにするのを分かっていたし、何より生駒の美しい所作を見るのを弓場はいっとう好んでいた。
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