ブラッシング 初めて人にブラッシングというものをしてもらったのは、まだ新入りの小さいの、と言われていた頃だった。
ボスのそれは、最高に気持ちよくて、毛は先端までつやつやになって、今思えば、最初に知ってしまってはいけないほど極上のものだった。
最高の最上をファーストインパクトで与えられちまった俺は、その後、それ以上の気持ち良さに出会うことはなかった。
離別の時、ほんの少し、めちゃくちゃ少しだけ、俺の後ろ髪を引いたのがソレだったというのは、誰にも言えない俺の秘め事だ。
もう、俺の人生の中で、あんなに優しくて、気持のいいブラッシングなんて出逢わねえだろうな、と、思っていたんだけど。
「おい、尻尾」
「……」
ブラッドリーの手に、ポンッと現れたブラシを見て、ネロの頭上で耳がピン、と立った。
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