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    44_mhyk

    @44_mhyk

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    44_mhyk

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    けものパニック!展示作でした。
    魔法使いはみんな猫の耳尻尾をもって生まれる世界線の魔法舎にて。
    ブラッシングの話。

    ##ブラネロ
    ##猫耳

    ブラッシング 初めて人にブラッシングというものをしてもらったのは、まだ新入りの小さいの、と言われていた頃だった。
     ボスのそれは、最高に気持ちよくて、毛は先端までつやつやになって、今思えば、最初に知ってしまってはいけないほど極上のものだった。
     最高の最上をファーストインパクトで与えられちまった俺は、その後、それ以上の気持ち良さに出会うことはなかった。
     離別の時、ほんの少し、めちゃくちゃ少しだけ、俺の後ろ髪を引いたのがソレだったというのは、誰にも言えない俺の秘め事だ。
     もう、俺の人生の中で、あんなに優しくて、気持のいいブラッシングなんて出逢わねえだろうな、と、思っていたんだけど。



    「おい、尻尾」
    「……」
     ブラッドリーの手に、ポンッと現れたブラシを見て、ネロの頭上で耳がピン、と立った。
     珍しく誘いに乗って訪れた、ブラッドリーの部屋でのことだった。
     いつの間に手放したのだろう、寸前まで口づけを受けていたはずのカットグラスは丸テーブルの上にちょこんと居場所を与えられている。
     ピン、と立った後にゆるく倒れていくネロの耳を楽しげにブラッドリーの目が追っているのがわかった。
     撫でられる前から撫でられた時の心地よさを思い出して反応する猫そのものだ。
     猫の耳と尻尾を持って生れつく魔法使いは、どうしても、性質が猫に似る。
     人間ならごまかせただろうに、それが今は少し恥ずかしかった。
     だが、ネロの興味はブラッドリーの手の中へと向かっていて、そんな羞恥も幾分薄らいでいた。
     ブラシの形、色。
     記憶に残るものは、柄なんてついてなくて、丸っこくて香木の色は焦茶だったはず。
     だが、今握られているのは高級な香木の黒い柄に、氷猪の艶やかな純白の毛のブラシだ。
    「なんか形違うな」
    「そりゃそうだろ。お前に使ってたのなんて、何百年前だと思ってやがる」
     そりゃそうだ。
     ネロはグラスを片手に握ったまま、思わず頷いた。
     ネロだって、調理器具は……魔道具として使っているカトラリーや、銀食器を覗けば……数百年同じものを完全に保持しているわけではない。
     ましてや日々つかうブラシは消耗品。……投獄の前後に、愛用のものを手元に取り戻せたはずもないだろうし。
     余計なことまで思い出して気分が少しだけ沈んだのが、顔に出たらしい。
     ブラッドリーが、呆れ顔でぐりぐりと頭を撫でた。
    「湿るな湿るな」
    「……しめってねえよ」
    「そうかよ。じゃいいけどよ」
     それよりほら早く、とブラッドリーの手が揺れる尻尾の先を捕まえて撫で上げる。
    「う」
    「は!」
     やんわりと握られた手からはみ出た尾の先がウネウネと動くのを見て小さく笑ったブラッドリーの頭上で耳がピクピクと動いた。
     ブラシが、絶妙な加減で尾をすべる。
     先端付近は強めに、付け根に向かってやや弱めに。
     こちらの好みを知り尽くした手が、最上級のブラシを扱うわけだから、気持ち良くならないわけがない。
    「ぅあ……」
     性感とも違う、ほわほわと身の内から暖かくなるような感覚。
     ふかふかのベッドに潜り込んで眠りにつく寸前の、曖昧な心地よさのような。
     頭を撫でられて、満ちていく幸せのような。
     抗いようがなく、喉が鳴る。絶対に馬鹿にされる、と思ったのに、ブラッドリーはふ、と柔らかく微笑んだだけだった。
    「!」
     穏やかに、優しくブラシを滑らせる、その伏し目がちな表情に見覚えがある。
     気を緩めればくったりソファに倒れ込んでしまいそうな心地よさと抗いながら、ネロはせめてもの抵抗のつもりでグラスのワインをできる限り普通に飲もうと試みる。
     まあ、実際は耳は気持ち良さで倒れ、喉はぐるぐると鳴り、うっとりと溶けた表情で震えながらワインを飲もうとするのだからあまり抵抗できていないのだが。
    「やめとけ、零すか咽るかするぞ」
    「あ」
     笑いを含んだ声と共に、グラスがネロの手から逃げるようにすり抜けて丸テーブルに飛んだ。
     ブラッドリーのカットグラスと寄り添うようにことり、と着地したそれを恨めしげに見つめていたネロは、ブラシを滑らせる音と尻尾からじわじわと体中に広がる心地よさに目を瞬いた。
    「もういいよ、ブラッド。きもちよすぎて寝ちまう」
    「寝りゃいいだろ」
    「だって、おかえし」
     もうすでにとろとろと溶け始めている声に、ブラッドリーの手がふと止まった。
    「……?」
     終ってくれたのかと尻尾を引き抜こうとすると、それはやんわりと阻止された。
     何なんだと隣を見る。ただ尻尾を捕まれたままなのはちょっとそわそわする。するならする、終るなら終るで尻尾を解放してほしい。
     ブラッドリーは、目をきょとんと丸くして動きを止めていた。それは、子猫が不意打ちの悪戯に驚いた時のも似ていた。
     それはすぐに、くしゃ、と笑みに転じて、目尻に優しく皺が寄る。
    「お返ししてくれるっつうなら、次でいいぜ」
     どんだけぶりかな、お前のブラッシング。
     くつくつと喉奥で笑うそれは、ネロにもはっきりとわかる程喜びで潤っていた。
    「……へたくそって言うなよ。あんたほど上手くねえんだから」
    「手ずから教えてやったはずなのに上達しなかったよなあ」
    「るせ」
     ペシ、と尻尾の先端で腕を叩けば、大きな手に柔らかく撫で上げられた。



    ◆余談◆
    北の魔法使い達はユキヒョウの性質があったりなかったりするので、ネロも自分の尾をはむっとするのが好きです。それ以上に、ブラッドリーの尻尾をハムっとするのが実はお気に入りで癖です。隣に並んで酒を飲んでいると高確率でやっちゃう。

    時間なくて書き足せませんでしたがどうしても追記したく…。
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