うたかたの夢「何故ここにいるのですか?」
唐突に声を掛けられ、思わず、え、と声が出た。
――――つもりだったが、音にはなっていないらしく周囲はしんと静まりかえったままである。
「何故ここに、あなたがいるのですか?」
再度問い掛けられ、気付いた。
声は、背後からかけられているということに。
相手を確認しようと身を捩るが、出来ない。
そもそも、自分には背中がなかった。
背中どころか、手も足も見えない。
見えているつもりが、目もないことに気づいた。
見えないのに、存在は感じている。
あまりに不思議な感覚に、戸惑いを隠せなかった。
「あなたは、忘れてしまったはずなのに」
背後、というのか、後方から聞こえてくる声の主も戸惑っているようだった。
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