囚人うさみ×刑務官かどくら 「今回は僕が囚人ですか」
すれ違いざまに呟いた、受刑者の言葉がどうにも引っかかる。
坊主頭で人当たりの良さそうな顔をした、口の両端に黒子を持つ青年。典型的な模範囚で、礼儀も正しい優男。
宇佐美というその男について、しきりに看守達が噂していたのを門倉は聞いていた。あんな奴が何をしでかしてここに来たのか、どうも殺しらしい、痴情のもつれだろうか、だが相手は男だそうだ、などと部下達は口々に話していた。
肝心の注目の的は、何故だろうか、門倉のことを気に入っているらしかった。
「ご結婚は、されていないのですか」
ある日突然、例の受刑者にそう声を掛けられた。
「……えっ?」
「あ、いえ、突然すいません……左手に指輪、されてないので」
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