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    現パロうさかど
    刑務官やってるかどくらと、囚人のうさみです。
    何年も前のやつの書きかけ。完成させたいなあ…

    #うさかど
    houseFrontage

    囚人うさみ×刑務官かどくら 「今回は僕が囚人ですか」

     すれ違いざまに呟いた、受刑者の言葉がどうにも引っかかる。
     坊主頭で人当たりの良さそうな顔をした、口の両端に黒子を持つ青年。典型的な模範囚で、礼儀も正しい優男。
     宇佐美というその男について、しきりに看守達が噂していたのを門倉は聞いていた。あんな奴が何をしでかしてここに来たのか、どうも殺しらしい、痴情のもつれだろうか、だが相手は男だそうだ、などと部下達は口々に話していた。
     肝心の注目の的は、何故だろうか、門倉のことを気に入っているらしかった。
     「ご結婚は、されていないのですか」
     ある日突然、例の受刑者にそう声を掛けられた。
     「……えっ?」
     「あ、いえ、突然すいません……左手に指輪、されてないので」
     随分と穏やかで落ち着いた声だ。優男と言われるだけはある。門倉がしばらく黙っていると、扉の向こうから慌てたような声が飛んできた。
     「お気に障ったなら謝ります。こんな下世話な質問……」
     「…………バツがついてる。嫁ならいたが、逃げられた」
     普段ならこういうのは無視をするのだが、あんまりにも真面そうな口振りだったので、つい答えてしまった。それきり背を向けて立ち去ろうとする門倉に、男は「そうですか」とだけ返した。
     男の名を宇佐美という。
     門倉は少し考えながら顎を摩った。殺人という重い罪を犯していながら、ああも社会に適合しているふうな男は珍しい。勿論殺しをするのが皆根っからの悪人という訳ではないが、そうだとしても、もう少し内気だったり、自分から発信をしていくタイプではないことが多い。宇佐美というあの男、人当たりもよいようだし、まるで好青年ではないか。だが罪状はやはり殺しだ。あんな順風満帆に生活できそうな男でも、やってしまうものなのか。
     門倉は、看守部長という立場にありながらさほど厳格さは無い男だった。他の刑務官に比べると監視も圧倒的に緩く、同僚や部下からは不真面目で頼りないと思われている一方、囚人からはそれなりに好かれていた。ああいう至極プライベートな質問を寄越す輩もざらにいる。ただ、まさか宇佐美のような男にも興味を持たれているとは思わなんだ。妙なこともあるものだ。

     それから暫くは、宇佐美の独房を通ると何かしらの言葉を寄越されるということが続いた。
     ある日は「髭、剃ってしまったんですか?勿体無い。前の方がお似合いですよ」と。そのまた別の日は「今日は機嫌が宜しいようですね」とか。些末なものばかりだ。
     然しながら内心門倉は驚愕していた。この宇佐美という男、想像以上にこちらの様子を汲み取るのが上手いらしい。余程門倉の気分が良い時以外は、声を掛けてこない。そういった時は無視をしたり、終いには流石の門倉も「私語をやめろ」と叱らざるを得ないことをよく心得ていたようだった。
     挙句の果てに宇佐美はこんな言葉まで投げかけてきた。
     「看守部長殿は存外狡猾なお方ですね」
     「……は?狡猾?」
     流石に驚いて、聞き返さざるを得なかった。独房の扉に開けられた小さな穴の、鉄格子の隙間から、人の良さそうな顔面が此方を覗いている。
     「俺が?」
     「勿論」
     「何処をどう見てそうなったんだよ……やる気のない、ただのボンクラだよ、俺は」
     囚人相手に話しすぎていることは重々承知していた。
     「まあ、確かに。ボンクラも貴方の一側面ではありますが。それ、ある程度演じられているでしょう」
     「……」
     なんだ此奴は。俺の事を買い被ってんだか煽ってんだか分からん。門倉は下唇を突き出したまま押し黙った。
     「気を悪くされたのなら謝ります」
     失礼致しました、と毛頭謝る気の無さそうな声音で宇佐美は言った。かといって、此方を小馬鹿にするような様子でもない。こういう時は社会通念として謝るのが普通、だから謝る、と言わんばかりの、いやに丁寧で無機質な響きだった。何にせよ、あまり好きになれない。こうも不躾な宇佐美は初めてだったので、怒りや不快感よりも、心配の方が勝った。



     宇佐美が暴行沙汰を起こしたのは、それから二週間ほど経ったあとのことだった。
     他の囚人と口論になっているのを、別の看守が目撃したらしい。軽く要点を聞いた時は、「あのナリで目をつけられたのか」と不憫に思ったものだが、よくよく詳細を聞いてみると、その実態は当初の予想と大きくかけ離れていた。
     口論とは名ばかりの、宇佐美の一方的な暴力の嵐だったそうだ。
     事実、病院に搬送される前のお相手を見たが酷いものだった。包帯やガーゼの上からでも分かるほど顔は腫れ上がっている。鼻も折れているようだ。
     かたや宇佐美はというと大した怪我もなく、門倉が房を覗いた時には素知らぬ顔で其処に座っていた。あまりにも普段と変わらぬ姿だったので、門倉は私情を挟んでその扉の小窓から凝視してしまった。
     「刑期が、さらに延びてしまいますね」
     門倉の視線に気づいて、宇佐美の方から先に口を開いた。確かにこれはどう見ても傷害事件扱いだ。暫く取調べを受けていた。二日もしない内に検察庁に送検されることだろう。
     「何かされたのか。あの男に」
     興味を殺せず問いかけた門倉の言葉に、宇佐美は暫く黙っていたが、やがて長い溜息をついた。普段とは明らかに雰囲気が違う。底知れぬ怒気と迫力が伝わってくる。

     「すきなひとがいるんです」

     「…………は?」
     漸く搾り出された言葉の脈絡の無さに思わず呆けた声をあげてしまった。宇佐美は淡々と続けた。
     「ずうっと好きなんです。多分産まれる前からです。僕が刑務所に入るとなった時だって、僕が出てくるのをなじょうも待つと約束してくれました。その言葉があるからこげなつまらん処でも我慢できたんです。らろもあんの男、世間話ついでに其の話をしてやったら、殺しで刑務所入って出るまでに何年かかると思ってるんだ、そんなに待ってくれる筈がない、諦めろ……と言ってきて、」
     「……だから殴ったのか?」
     「だから殴りました」
     もう一度、長い溜息。膝の上に握り込んだ拳はぶるぶると震えている。其の拳が真っ赤に腫れ上がり擦りむいていることに、そこで初めて気がついた。男を殴ってそうなったのか。

     「思い出すだけで腹が立つので、あまり思い出させんで下さい」

     普段の慇懃な態度とは比べ物にならないような、子供の癇癪のような喋り方だった。時折出てきた耳馴染みのない言葉は方言だろうか。
     (思ってたよりやべー奴だったな……)
     何にせよ門倉は心底返答に困った。
     「……まあ、その、なんだ」
     逡巡した後、制帽を目深に被りながら言葉を搾り出す。
     「お前の『すきなひと』ってのも、お前が出所するのを心待ちにしてるだろうし、其の人を悲しませちゃいかんだろう。今後は二度とこんなことはするなよ。早くその顔を見せてやれ」
     心から宇佐美の為を思っての発言とはお世辞にも言えなかった。宇佐美の琴線に触れず、然しながら刑務官としての立場は損なわないような言葉を一生懸命選んでのものだ。
     「……はい!」
     無難な門倉の言い回しに、其れでも宇佐美は至極喜んだようだった。途端に般若のようだった表情を綻ばせ、何時もの好青年よろしくにこにこと笑った。
     「やっぱり看守部長殿は良いお方だ」



     翌日早々に宇佐美の送検が確定した。本日、遅くても明日までには、宇佐美は此処から検察庁に移送されることになる。
     門倉は内心安堵した。初めは穏やかそうなあの男に対して同情めいた感情もあったし、支障を来さない程度の贔屓をしていた部分があったが、昨日のあの様子を見て印象ががらりと変わってしまった。なまじ当初優しくした所為か気に入られてしまっているようだし、申し訳ないが尚更気味が悪いので早々に距離を置きたい気持ちがある。
     その日の夜、巡回中のことである。宇佐美が体調不良を訴えだした。
     「大丈夫か」
     「腹痛が、退きません…」

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