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    これで大体プロローグ的な感じになります

    #霊エク
    ghostEcology

    霊エク執筆中 「それでは霊幻さん、当時のことについて、詳しくお伺いしたいんですが……」

     眩しすぎる照明に照らされながら、司会者は俺にそう言った。だだっ広いスタジオの中で、声がよく通る。営業スマイルに定評のある俺でも、今回ばかりは表情がぎこちなくならないように必死だった。例のスキャンダル以降、どうもカメラに囲まれるのが慣れない。一種のトラウマのようになっている。そもそも、このスタジオの天井の高い感じが嫌いなんだよな。もうちょっとこじんまり出来ないものなのか?出演者達は、全員俺に注目している。普段より少し多めに息を吸って心臓を落ち着けようとしたその時。

     「一丁前に緊張していやがるな」

     聞き馴染みのある声が頭上から降ってきて、その瞬間張り詰めていた糸が一気に緩んだのが分かった。少しだけ目線を上げると、緑の光が視界の端にチラついた。
     その後は、スラスラ言葉が出た。
     「あの時――今から4年ほど前になりますかね。当時、あの番組に出演していた天才子役の彼には、本当に霊が憑いていました」
     そう告げた俺に対する周りの反応は様々だったが、半分以上は懐疑的な目を向けていた。
     「私の前で演技をしてみせた彼も、実は本当に憑いていたなんて、想像にもしていなかったと思います。霊自体もそれほど強力なものではなく、自覚症状も特になかったでしょうから」
     「――――と、いうことなのですが、皆さん、どう思われますか?」
     司会が何を考えてるんだかよく分からないトーンで言った。「え、でもぉ、」と声を上げたのは、ニュース番組のコメンテーターとしてよく見かける、本職のよく分からない男性タレントだった。
     「僕も当時あの番組見てましたけど、一緒にいらっしゃった霊能力者の方は、」
     「浄堂麒麟さんですね」
     「そうそう、確かそんな名前の……あの人は、演技だって見破ってましたよね?じゃあ、あっちが嘘ついてたってことですか?」
     来たな。想定通りの質問だ。今までの話を聞いていた人間なら、誰だってそう思うだろう。
     「いえ、浄堂さんは本物の霊能力者です」
     「え、でも――――」
     「ですが、浄堂さんですら見抜けなかったんですよ、あの少年に取り憑いていた霊の存在に。あの霊は、霊級値が相当高い方であっても、なかなか気づけないほど、上手く彼の体に隠れていたんです。しかし私は気づけた。この、霊幻新隆は!」

     「よくもまあ次から次へとそんなでまかせが出てくるな」

     熱弁する俺に対し、頭上からの声は随分と温度が低い。お前はちょっと黙ってろ、万が一お前のことを見えてる奴がこのスタジオにいたらどーすんだよ!
     「――――さて、霊級値、という謎の専門用語も出てきましたが……」
     司会者は淡々と続ける。

     「実はこの霊幻新隆さん、あれだけのスキャンダルがあったにもかかわらず、現在はリーズナブルな値段で数々の除霊依頼をこなし、巷では『すぐ会いに行ける霊能力者』として――――」





     「なーにが『すぐ会える霊能力者』だ。言われてるの見たことねーぞ」
     収録後、楽屋に着いて座敷に腰掛けた途端、エクボが開口一番そう言った。言いたくて言いたくて堪らなかったらしい。実際、司会がこの発言をした時も、頭の上で含み笑いをする声が聞こえてきた。
     「……一応、ネットでそんな書き込みされてるの、見たことあるぞ、俺」
     畳の上に倒れ込んで、言った。緑のアメーバは腹の立つ笑みを浮かべながら鼻で笑った。
     「だがまあ、着々と評価が上がっていってるのは事実みたいだな。最近客足が増えてきたと思ったら、とうとうテレビにまで出ちまった。4年前のお前さんへの疑惑も今回である程度払拭されただろうし…………感謝しろよ」
     「芹沢にな」
     「俺様にもだよ!!今日だって、何の為にわざわざついてきてやったと思ってんだ!前みたいにお前がまた生放送で嵌められて、詐欺師なのがバレたりしないように、わざわざ入れ知恵しに来てやったんだろうが!」
     うるせえなあ。喚き散らすエクボを見る気にもなれず、楽屋の明かりも眩しいので、腕で顔を覆って無視を決め込んだ。4年振りのテレビは、かなり疲れた。





    ***





     「師匠、見ましたよ。昨日の放送」
     「おーモブ、様子見に来てくれたところ悪いな。実は今日、除霊依頼の予定がパンパンで……この後も15分くらいしたら、依頼で全員ここを出ないといけない」
     いつも眠たそうにしているモブの瞳が、幾分縦長に見開かれた。驚いているらしい。
     「さすがです。師匠」
     そんな返事が返ってきた。本当に素直だな、コイツは。大学生になって、少しくらい生意気を言うようになるかと思ったが、全然だ。
     モブは霊とか相談所の扉を開けたまま、入口付近で立ちすくんでいたので、室内に入るよう促した。傘を振って、飛沫が廊下の床に落ちる。外は雨、時期は梅雨だ。湿気も酷い。暑くないはずなのに、体中に嫌な感覚がへばりつく。ジャケットを脱いで、背もたれに。ワイシャツも捲って、腕を剥き出しにした。室内だっていうのに、空調はなかなか仕事をしてくれないらしい。
     「この調子だと、またテレビに呼ばれるかもしれませんね。引っ張りだこになるかも」
     「いや……内容にもよるが、今後テレビ出演の依頼が来ても、基本は全部断るつもりだ」
     「えっ?」
     「別に有名になったところで、そんなイイもんじゃないだろ。のびのびやりたいことをやれてる今くらいがちょうどいーんだよ」
     「そうなんですか…」
     狐につままれたような顔をしてモブが言った。だいぶ残念がっているようだが、この意志を変える気はなかった。

     と、いうのも、だ。
     昨日、俺が出演した番組放送直後、ふと思い立って『friend book』――アカウントを作ったものの、長らく放置してしまっているSNSだ――を開いたところ、覚えてもいないような知り合いから何通かメッセージが届いていたのだ。
     「サインをくれ」だの「今度飲みに行こうぜ」だの、途端に息を吹き返した薄っぺらい交友関係の数々を見ているうちに、なんかもう、色々と面倒くさくなった。
     知名度が上がる度にこんな奴らからいちいち絡まれるくらいなら俺は、ここにいる、有名になろうがなんだろうが変わらないこじんまりした奴らと一緒にいた方が性に合ってる。

     「でも、かえって安心しました」
     モブが言った。
     「なんで?」
     「師匠のサインを知り合いに求められたらどうしようって、今日丸一日考えてたので……」
     笑ってしまった。
     「……でも、浄堂さんとかいう霊能力者の人、大丈夫なんスかね。霊幻さんにあんな評価を下げるような言い方されたら、また何かしてくるんじゃないですか?」
     芹沢が席を立って、ジャケットを羽織りながら言った。そろそろここを出ないといけない。
     「霊なんて見えてないって言うよりはマシだろ。一応霊能力者だとは言ってるし。ただ俺よりちょっと力が弱いってだけで」
     「だからその言い方が反感を買うんじゃ……」
     「まあ、その時はその時だな。今後は必ずエクボを連れてくし、少なくとも同じような手にはもう引っかからないだろ」
     「オイ、俺様聞いてねえぞ、そんな話」
     芹沢に合わせるように、俺も立ち上がってジャケットに手を掛ける。身に纏うと、湿気の不愉快さがより一層強くなったが、仕方がない。雨、止みそうにないな。天気予報じゃ昼には晴れるって言ってたが、この時期の予報なんて当たるはずもないか。
     「影山くんも、今日はシフト入ってないはずだけど、どうする?一緒に除霊依頼ついてく?」
     「言っとくけど時給はナシだからな」
     俺の言葉をモブはこれといって気にもとめず、芹沢の方を向いて、首を横に振った。なんだか大人気ない発言をしたこっちが恥ずかしくなってきた。
     「いえ、今日は本当に顔を見せに来ただけというか……この後午後から講義があるので、僕ももう出ます。はい、師匠、これ」
     モブはそう言ってビニール袋を応接テーブルの上に置いた。中の物体には更に包装がされていたが、独特の形状と、漂ってきた香ばしい匂いで、すぐに何か分かった。
     「たこ焼きか!でかしたモブ!」
     「依頼を終えて帰ってきた時には冷めちゃってるかもしれないけど……よかったらみんなで食べてください」
     「いや、今すぐ俺と芹沢で平らげるから大丈夫だ。また今度、時間がある時に、大学の話聞かせてくれ」
     「はい」
     片手を小さく振りながら、モブが扉の隙間に消えていく。パタン、と閉まる音がしてから、俺と芹沢は袋をこじ開け、土産にありついた。仕事が忙しくなった割に、霊とか相談所は以前ほど人員が多くはない。モブだけでなく、トメちゃんも、最近は大学のオカルト研究会とやらが忙しいらしく(忙しくなるほど何やってるんだ……?)、俺と芹沢とエクボだけなんてこともザラだ。
     「あっつ……」
     頬張ったたこ焼きが口の中で割れた。たこ焼きが好物な割に、火傷したりすぐ落としそうになったりするので、食うのが下手だ、とよく言われる。
     「あ、そうだ。霊幻さん」
     芹沢があっという間に自分の分をたいらげて、おもむろに口を開いた。
     「俺、来週の金曜日、休みたいんですけど、大丈夫ですかね」
     「あー……確かその日はトメちゃんもモブもいるんだったな。別にいいぞ」
     そう言うと、途端に表情が和らいだ。ははあん、なるほど、そうか、そういうことだな。
     「お前……さてはアレだろ。例の彼女だろ」
     「ええ、まあ」
     即答かよ。もうちょっと遠慮するとか、「違いますよ!」って建前だけでも言っとくとか、そのくらいしろよ。芹沢という男は、たまにこういうところがある。
     「……それで?どうなんだよ、上手くいってんのか?」

     「こないだ、ご両親に挨拶に、」

     「挨拶ぅ!?」

     俺と、それまで無言で会話を聞いていたエクボの声が被って、ほぼ同時に聞き返していた。芹沢は照れたように、「ええ、まあ」ともう一度言った。
     「オイオイまじかよ……お前さん、付き合い始めたの一ヶ月前だったよな?随分お早いゴールインじゃねーか」
     エクボが呆れと感心の混ざった声音で言うと、芹沢は、いや、とそれを否定する。
     「まだすぐ結婚するって決まったわけじゃないよ、でも……それくらい本気でお付き合いしてます、っていうのは示した方がいいと思って」
     随分、言うようになった。俺より年上のはずだが、芹沢には親心に近い妙な感覚を持ってしまう。
     「霊幻さんの方こそ、その辺どうなんすか?お互いもう30過ぎてますけど、婚活とか考えてたりします?」
     婚活ね……

     母親からはその件で、最近頻繁にメールが届く。昨日のテレビ番組放送後も、もちろん来た。
     する気がないわけではない。結婚したくなるくらい寂しくなって、ちょうどよく出会いが転がっていて、かといって俺の知名度欲しさで近づいてきたりせず、生活の邪魔だと感じないくらい波長の合う人間がいれば、結婚しようと考えている。
     要するに、今は、それなりに満たされてしまっていて、急を要してはいないんだ。

     「……まあ、そのうちやるよ。今の時代、結婚なんて無理にするもんじゃないしな」
     「そうですね」
     ここまで話して、ふとエクボのことが気になった。俺達2人のこんな話、悪霊にはついていけないだろう。
     上の方を見ると、緑の風船と目が合った。
     「……あ?なんだよ」
     「いや……」
     会話はそれきり。俺達は事務所を出た。立て掛けてある貸し出し用の傘を2本持って、片方を芹沢に手渡してやる。外の雨は、強くもならず、弱くもならず、だらだらと降り続いていた。俺と芹沢のちょうど間の、無難な位置で漂うエクボに傘を傾けて、霊体を覆ってやると、
     「要らねえよ。濡れねえし、風邪もひかねえ」
     「ああ、そう……」
     つっけんどんな態度に肩透かしをくらった。間違ったことは言っていないんだろうが違和感の残るその言葉に、「まあ、生きている人間と悪霊の価値観の違いなんだろう」と自分を納得させることにして、俺達は職場を後にした。
     一日パンパンに張り詰めていた依頼は、どれもあっという間に芹沢が片付けて、そのまま業務を終えた。



     「まだ止まねーのかよ、雨」
     時刻は6時を回る。職場に戻ってきて、最後の客を相手した後も、天気は相変わらず。この雲じゃあ、夕日も見えない。せっかくの金曜日なのに、気分も盛り上がらない。
     …………金曜日か。
     「芹沢、今日、飲みに行かないか?」
     「あー……えっと……」
     「……もしかして、彼女?」
     「その……はい……」
     なるほど。
     霊とか相談所の面々の私生活が変化し、皆が充実して、忙しくなったことで、改善したこともたくさんある。人件費も浮いたし。ただ、逆に、俺はやることのない平日の夜を過ごすことが少しずつ多くなってきた。
     俺は、モブや芹沢、これまで出会った人々と交流する以外には、ネットサーフィンくらいしか趣味を持たない男だ。以前は、モブと飯に行く、芹沢と飲みに行く、モブが弟や友人を連れて俺の家にあがりこんでくる(許可はしていない)、など、それなりに何かをして過ごすこともあったが、今はからっきしだ。
     正直、こんな状況だからこそ、結婚の話も次第に現実味を帯びてきている。あと数年もすればモブ達も社会人になるし、仕事次第じゃ余計に会う頻度は減るかもしれない。
     「……あれ?そういえばエクボは?」
     「霊幻さんがトイレ行ってる間に出ていったっすよ。影山くんの授業がもうすぐ終わるから、って」
     そうなのか。いつの間に。この際時間が潰せるなら、アイツでも良かったんだが。まあ、仕方ないな。今日は一人カラオケでも行くか。諦めて席を立ち、芹沢に帰るよう促しながら、店じまいの準備をする。芹沢はてきぱきと荷物をまとめて(元々大した量持ち歩いていないが)、早々に入口の傍に立った。
     「じゃ、お疲れ様です」
     晴れやかな顔だな。それが彼女に会う奴の顔か。どんな女なんだろう、こいつの彼女。芹沢が引っ張っていくってことはあんまり無さそうだから、姐さん女房気質の人かもな。酷いフラれ方しないといいけど。
     窓の外を覗くと、開かれた芹沢の傘がよく見える。
     …………帰るか、俺も。





     ***





     「何、やってんだよ。こんなところで」

     今日はこの後カラオケ行って、適当な酒とつまみを嗜みながら適当になんか歌って、そのまま何事もなく帰るつもりだった。
     相変わらず俺は酒が弱くて、サワー一杯で既に足元がふらつくし、雨は止まない。酔っ払っているせいで傘を持つ手もおぼつかず、水滴が骨組みを伝って俺の肩に滴り落ちてくる。周りは俺と同じような暇な酔っ払い達が街を闊歩して、うるさい。だんだん繁華街を抜けて、住宅街に入る。俺には一生縁遠い、一軒家が立ち並ぶちょっとハイソな通りの中の、家族団欒の声が聞こえる二階建ての家がある。

     その家の花壇に植えてある紫陽花をぼんやり眺めながら、ただただ雨に打たれている緑の浮遊体がいた。

     気づいたら声を掛けていた。
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