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    #モブおじエク
    uncleMobbEq.

    モブおじエク【まだR-18にならない】 昔から、悪霊としての自分の実力には自信があった。
     並大抵の雑魚じゃ到底太刀打ちできない霊力に、大人数を一斉に洗脳できる能力。何より、それらの力を正常に扱うだけの強力な自我がある。
     これについてはシゲオとは明らかに相容れない考えかもしれんが、これほどの力、誇示しないのは損だとすら考えていた。

     だが、あまり力がありすぎるというのも考えものらしい。



     「…………その悪霊、あなたが飼ってるんですか?」

     霊幻に向かってずけずけと言い放ったその男の言葉に、場の空気が一瞬で変わった。
     ちと厄介そうな除霊依頼で居合わせた、霊能力者の男。仕事で同業者に会うことはままあるし、俺様の存在に気づいて声をかけてきたり除霊しようとしてきた奴はいる。だが、「飼う」なんて露骨な表現を使ってきたのはコイツが初めてだった。
     「……あ?」
     霊幻が面倒くさそうに返す。俺様も無視を決め込む。いけ好かねえヤツだ。わざわざ返事してやる義理もないだろう。
     そのオッサンはキョロキョロと周りを見回した後、どこかに目を留めてから、手を挙げて声をかけた。
     「おい、ちょっと、」
     視線の先には、見知った顔があった。あれ、確か『爪』の第七支部にいたオネエ言葉の悪霊使いだな。名前は思い出せんが、コイツとは嫌な思い出がたくさんあるので、顔ならよく覚えている。
     「魔津尾さん、アレかい?こないだ話してた悪霊って」
     オッサンが言う。ああ、そうか、魔津尾……そんな名前だったかもしれん。魔津尾はこっちを見たままハッとして、
     「いたのね、アンタ達……」
     と、呟いた。
     今日の依頼には、シゲオも、芹沢も来ている。霊とか相談所の戦力総出で対応にあたっている(トメだけは危ないから休みだ)。魔津尾は、年齢も体格もてんでバラバラの俺達を見つめて、ため息をついた。
     「あーあ、今回も手柄取られちゃいそうね。商売あがったりだわ」
     「魔津尾さん」
     魔津尾の袖を男が引き、前のめりになりながら、捲し立てるように言葉を紡ぐ。
     「アレですよね、魔津尾さんが言ってた『例の悪霊』って」
     「え、えぇ……そうね………」
     煮え切らない返事だ。ははあ、なるほどな、そこまで懇意の仲ってワケじゃないらしい。むしろ魔津尾のヤツ、苦手意識すら持っているな。
     っていうか、「例の悪霊」だと?俺様のことをこのオッサンに吹聴したのか。男が突然俺の方に手を伸ばして触ろうとしてきたので、躱して距離を取る。
     「寄るんじゃねえ。気味が悪い」
     「うわっ、ちゃんと喋った。ずっと周りに浮かんでるのに、悪さはしてないし、自我もある。すごいなあ、どうやって手懐けたんです?」
     「あの、」
     男の猛追を言葉で制したのはシゲオだった。

     「僕の、友達なんです。そういう言い方するの、やめてもらってもいいですか」

     穏やかで諭すような物言いだが、少しだけ怒りが滲んでいるのがわかる。
     「シゲオ……」
     男は肩をすくめると、俺様をじろじろ見ながらその場を離れていった。なんだその目は。謝罪の一つくらい言えよ。
     困ったような顔をする芹沢に、霊幻が言った。
     「なんだアイツ。急に話しかけてきたと思ったら、怒られた途端コレかよ。社会人としてのマナーがなってねえなあ、芹沢」
     「そうですね……」
     会話はそれきりだったが、今度は魔津尾がこっちに向かって、手招きしてきた。
     「マシュマロちゃん、ちょっと」
     「………おい、その呼び方やめろ。あとお前、さっきの男に俺の話しやがったな?」
     「そ、そんなつもりじゃなかったのよ、ただ……」
     魔津尾はバツが悪そうにしながら、こっちに耳打ちしてきた。
     「前に受けた除霊依頼の時に、アタシ、アイツと居合わせてね。お互い悪霊使いってことで、ちょっと話す機会があったんだけど、『自我のある強力な悪霊に会ったことがある』ってプリンちゃんやマシュマロちゃんの話をしたら、予想以上に食いちゃって……」
     「プリンちゃん?」
     「最上啓示のことよ」
     「えぇ、お前………」

     「とにかく、気をつけて。アイツ、多分マシュマロちゃんのこと狙ってるわ……
     何しでかすか分からないのよ。欲しい悪霊がいると、手段を選ばずに行動を起こしちゃう、って本人も言ってたし……不安だわ」

     「ふーん……」
     確かに、さっきの舐め回すような視線、イヤ〜な感じはしたな……
     まあ、別にどうとでもなるだろ。あのオッサン、多少霊能力はあるみたいだが、大した強さではなさそうだ。ここ最近の除霊依頼で俺様の霊力も溜まってきてるし、いざ何かされそうになったら蹴散らせばいい。朝飯前だ。
     ふと、シゲオが心配そうに見つめてきているのに気がついた。
     「エクボ、」

     「気にしてねーよ。悪霊だからって理由で、ああいう扱いしてくる奴はいるもんだ。
     それより、嬉しかったぜ〜、シゲオ。俺様と友達なんだってな」

     「………うん」

     その後、肝心の悪霊はシゲオが一瞬で片付けて、その日の依頼は終わった。



    ***



     ここからが厄介だった。
     どうやらあの男も調味市に住んでいやがったらしい。

     その日、特にやることもなく街中をふらついていると、いきなり後ろから頭頂部を鷲掴まれた。
     「うおぉっ!?」
     「やっぱり、あの時の子だ」
     顔を覗き込まれて目が合った瞬間、「げ…っ」と露骨に声を漏らしちまった。慌てて男の手をすり抜けて、距離を取る。
     掴まれた部分がゾワゾワとして不快だ。男の言葉を無視して立ち去ろうとすると、「ちょっと」と呼び止める声が後ろから飛んできた。
     「悪かったよ、こないだのことは。ペットみたいな言い方をされて、怒ったんだろう」
     怒った、と言われると語弊がある。
     俺様のような上級悪霊ならともかく、ほとんどの悪霊は自我が壊れて、会話もままならないのが常だ。コイツが悪霊に対して人間よりよっぽど下等な存在だと認識しているのも、別におかしな話じゃない。
     どちらかといえば呆れている。大概しつこいな、コイツ。
     無視を続けると、再び掴もうとした男の手が俺の体をすり抜けて空を切った。シゲオほどの力はないからか、さすがに俺様の体が消し飛ばされるってことはないが、霊体の中をまさぐられるような感覚にぞわりとして気味が悪い。さすがに堪らず声を上げた。
     「おいっ、いい加減にしろっ」
     「反応まで普通の人間みたいだ」
     頓珍漢な答えが返ってきた。のれんに腕押しだな。チッと舌打ちだけして後ろを向くと、いつの間にかいくつかの悪霊が、でかい図体でこっちを覗き込んでいた。

     取り囲まれている。

     「…………実力行使か?」
     男は笑うだけだ。これ以上は寛容になれそうにない。
     体の中にぐ、と力を入れて(筋肉なんてないが)、目の前の雑魚目掛けて飛びかかった。もはや人の形をしていないソイツらに頭から食らいつく。
     大した力は無さそうだ。食っても霊力はそこまで溜まらない。口に入らなくなってきたので、フルパワーの姿で覆いかぶさりながら貪る。
     ふぅー、食った。後ろを振り返ると、男は拍手をしながら目を輝かせて、言った。

     「ほしい!」

     「……さっきの謝罪は口だけみてーだな」
     マジかコイツ。謝るだけ謝っても反省の色はないらしい。挙句、自分の悪霊が消滅したことにさほど気にもとめてねぇようだ。魔津尾よりよっぽどタチが悪いのが分かる。
     男はすたすたと近づいてきたかと思えば、
     「やっぱり、仕事手伝ってよ。その力を存分に発揮させてあげる」
     と言ってきた。
     この期に及んでまだ勧誘かよ。その上から目線が気に入らねえんだ。
     そう返そうとした時、男は続けざまに、

     「むしろ、なんであんな子供と友達ごっこなんてやってるんだ?」

     そう放いてきやがった。
     「……何が言いてーんだ?」
     「君だって、悪霊である以上何かしらの未練があって今世にとどまっているんだろう。その未練って、今みたいな『自分の力の誇示』なんじゃないのか?あんな奴らと仲良しこよしするのだって、本意じゃないだろ」
     「どうしてそう言いきれる」
     「君が相当強い悪霊だからだよ。他人と仲良くなりたいだけの霊が、こうやって他の霊を食って力を溜め続けるなんて、聞いたことがない」
     「…………………」
     「本当は君だって、その力を存分に発揮したいはずだ」

     いいや、違う。
     確かに以前でこそ「神になりたい」なんて大層な野望を掲げていたが、「神になりたい」「力を誇示したい」なんてのは、本当は根本的な望みを達成するための、ほんの一過程に過ぎないものだったんだ。高尚な存在になりたかったのも、力を誰かに見せびらかしたかったのも、それによって周りに人間を集めて、「寂寥感を埋める」という本来の目的を達成させるための、ただの手段だ。それがいつしか、目的と手段がひっくり返っちまっていた。

     あくまで俺は友達が欲しかった。それだけのことだ。

     かといってそれをこの男に言うのは、どうもプライドか許さなかった。コイツは俺様の本質を一ミリも捉えていないが、かといってコイツに「本当は人恋しい霊なのだ」と思われるのはどうも癪に障った。
     「失せろ」
     とりあえずそれだけ言って、男の目の前で腕を振り下ろした。風が舞って、地面にヒビが入った。

     今考えてみれば、この行動こそが、男の求めていた「力の誇示」そのものだった。情けねえ話だが、俺様は自分のプライドを保とうとするあまり、この男の所有欲を焚き付けてしまっていたらしい。



    ***



     数日後。俺様には待ち合わせの用事があった。
     『爪』の第七支部で、守衛だった男――俺様が、憑依してひと暴れした時の体の持ち主と落ち合う予定だ。



     その前日、
     「明日、半日くらいなら体貸してもいい」
     ファミレスで飯を食っていたのをたまたま見かけた俺様が顔を見せに行くと、守衛は挨拶がてらそう言ってきたので、心の底から驚いた。
     「いいのか?」
     ヤツはこくりと頷いた。
     オイ、正気かよ。そのまま体、持っていっちまうかもしれねえぞ。
     と、言うと、今更何を、と笑われた。

     シゲオが第七支部を木っ端にした後、しばらくの間はこの男の所在を知ることもなく、すっかり存在を忘れていた。その後、ふと思い出したついでに、世間話がてらシゲオや霊幻に悪霊使いに飼われそうになったことや、その際憑依先の耳をちょっとばかし切っちまったことを伝えると、非難轟々の嵐だった。何人の体を勝手に傷つけてんだ、せめて様子だけでも見て来い、と霊幻に言われ、不本意ながら第七支部の面々にわざわざ聞いて、住所を突き止めたのだ。
     憑依先は俺様のことが見えるようになっていたらしい。様子を見に行って会話して以来、腐れ縁のような関係が続いている。

     『爪』の幹部達同様、コイツも結構不安定な生活を続けているらしい。何かにつけて「金を稼がなくても生活できる幽霊が羨ましい」と言ってくる。この男には、死んでいるのに現世から抜け出せない、ごく一部の人間には認知すらされない存在の不条理さが理解できないらしい。まあ、今を生きるのに精一杯な人間なんて、大体みんなそんなもんだろう。
     コイツの言う通り、俺様はこの体を完全に乗っ取るつもりはない。その気があるならとっくにやってる。あくまでちょっと借りるだけだ。
     人間の体を借りて何をしよう。暇そうな奴にでも声をかけて、飯に行くか。銭湯なんてのもいいかもしれない。

     そんなことを考えながら待ち合わせ場所に辿り着いた時、待っていたのは憑依先ではなく、笑みを浮かべながら立っている、例の男だった。



     「ねえ、どういうこと?」
     開口一番、男は笑いながらそう言ってきた。
     「はぁ?………こっちのセリフだ」
     「ここで一人の男性と待ち合わせしていたよね」
     お見通しのようだ。さすがにちょっと、肝が冷えた。ストーカーか?洒落になんねえぞ……
     肯定も否定もせずに黙っていると、男が手を伸ばしてきた。反射的に距離を取ると、ヤツは笑いながら、
     「そろそろ言うことを聞いてほしいな……彼の身の安全も保証できないし」
     と、脅しをかける。
     「アイツに何かしたのか」
     「痛いことはしてないよ、ほら」
     「…………は、」

     そう言って、見せつけられた携帯の画面。写真に写る守衛の姿が、一目見て信じられなかった。

     「ほらね、無事でしょう。でも、目が覚める前にどうにかしてあげた方がいいだろうね。自分がこんな格好してるなんて分かったら、僕だったら死にたくなる」
     「ッ、この、変態野郎っ」
     カッとなって、気づけばフル霊力の姿で男を睨みつけ、牽制していた。逃がさないように男の両脇に勢いよく手をついて、コンクリートの壁がでかい音を立てながら凹む。
     ここは人通りが少ない。待ち合わせ場所として、俺様と憑依先が敢えてそういう場所を選んだんだ。でないと、守衛が、虚空に向かって会話しているところを、大衆の面前に晒すことになる。
     このクソ野郎は、俺様に怯えながら、それでも尚笑っていた。
     「僕だって、そういう趣味があってこんな事をしているんじゃない。ただ、君のことを確かめたくなっただけだ」
     嫌な笑みだ。視線に体を舐められているようだった。値踏みされている。

     「彼のこと、助けたい?」

     「…………」
     「やっぱり助けたいんだ。もったいないなぁ」
     「ぁあ?」
     要領を得ない発言に、片眉があがった。
     「もったいないだと?」

     「そうだよ。君ほどの強い悪霊が、人間に情けをかけるなんておかしい。悪霊はもっと、自己中心的で、野蛮で、野性的じゃないとダメだろう」

     あまりに自分本位な発言に目眩がしてきた。
     「……なんでお前さん如きに、悪霊としてのあるべき姿を決められなくちゃいけねーんだ?」
     「だって、そうでもなきゃ悪霊が悪霊であることの存在意義がないじゃないか。君たち悪霊は、生きている人間に攻撃的で、悪影響を与えるからこそ悪霊なんだ。

     人間と仲良しごっこをしたところで、君が本当の人間になれるわけじゃないんだよ」

     「…………」
     物の見事に、俺様が一番言われたくないことを言ってきやがった。
     男を脅すように覆いかぶさりながら、それでも押し黙る俺に、男は笑みを深めて、言った。
     「それでも助けたいのなら、ついておいで。君の頑張り次第では、彼を救ってあげないこともない」
     男の手が再び伸びてきて、そのまま俺の体に触れた。

     霊体の中にゆっくりの手の平が埋まっていく。感覚器官がないはずの体が、悪寒で震えた。



    ***



     「どうして君達がここで落ち合うことを知っていたのか、教えてあげようか」
     「…………」
     「実は、霊幻新隆の事務所や君の友達の家の付近に、僕の飼っている霊を何体か配置していてね。君の居場所を常に監視するよう伝えていたんだ………ねえ、聞いてる?」
     「っ……その手、どけろ。気持ち悪くて話に集中できねえ」
     目的地に向かう間、男は俺の霊体の中に指やら手やらを突っ込んで、引っ掻き回していた。もちろん実体がある訳ではないからすり抜けだって可能だが、コイツの言いなりになっておかないと、守衛がどうなるか分かったもんじゃない。眉を顰める俺の姿を見とめると、男はますます面白そうに、体の中で掌を開いたり閉じたり、繰り返し動かした。
     「やっぱり気になるの?本物の体じゃないのにねえ。幻肢痛みたいなものなのかな
     …………ほら、着いたよ。ここだ」
     男が立ち止まったのは、霊幻の事務所からさほど遠くない、とある雑居ビルの前だった。建物の中に入る前に、男は俺の方を見てから、一言こう付け加えた。
     「彼の姿を見たらまた君が怒り狂って手がつけられなくなりそうだから、予め言っておくよ。部屋の中に入ったら、彼に憑依するんだ、いいね」
     「俺様が素直に言うこと聞くと思ってんのか?」
     「きっと聞くよ」
     男の指が頬をさすってきたので思わず手で振り払った。「かわいいね」と低い声で囁かれたが、気持ち悪すぎる。

     ビルの中に入り、薄暗い階段を登って3階にあたる部分に、古めかしい内装とは似ても似つかない、小綺麗な扉がある。見た目の清潔感とは裏腹に、その扉からは嫌な空気が漏れ出ていた。
     この感覚には、覚えがある。
     あからさまに部屋に入るのを嫌がる俺に、男は「バレたか」と突然子供のように笑った。
     「そう。ここは、魔津尾さんの『ゴーストカプセル』と同じ呪いを掛けているんだ。君が一度入ったら、僕の意志がない限り外には出られないよ」
     「…………」
     「入らないの?だとしたら、中にいる彼はずっとあのままだね」
     「……………………クソッ!!」
     悪態をつくしかなかった。手立てがねえが、守衛をほっとくわけにもいかない。最悪だ、クソ野郎!!
     男が扉を開ける。腹を括って中に入ると、背後でバタン、と扉が閉まる音が響いた。
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