「そろそろ魔力が足りないんじゃないか?」
床に座り込んで熱心に古書のページを捲るガンガディアの背中に向かって、マトリフは声をかける。
「いや、まだ結構だ」
精一杯の誘いの言葉に対して、ガンガディアはあまりにもそっけなく、マトリフは眉をしかめる。
マトリフとガンガディアが一緒に暮らし始めて、しばらく経つ。
死の間際のガンガディアから譲り受けたドラゴラムの書には、ガンガディアの魂が僅かに残っていた。その魂は、マトリフの魔力に触れ続けたことで、ふたたび生を得て、さらには実体を伴うことまでできるようになったのであった。
初めて本の中からガンガディアに語りかけられた時、マトリフは大変驚いたものだが、好敵手が蘇ったことは嬉しくないわけがなかった。今度こそ、平和に友情を築きたいと思ったのだ。
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