自鬼お伽噺『人魚の泡は檻の中』 荒れた海に響く呪いの歌。
今夜もまた、旅人を海へ引き摺り込む。
岩礁に打ち付ける波に身を任せ拍子を取りつつ、妹の狂蠱とハーモニーを奏でていた時だった。あの男が尋ねて来たのは。
「青い彼岸花を知らないか?」
漆黒の髪に緋色の瞳、生気を失った白い肌は怪物の私達でさえ身震いさせた。
「知らないわね」 「キョーコ、シラナーイ」
嫌な予感がした、その為だけにこんな時化た海原へ……? そもそも、何故歌声を聞いても虜にならないの?
気づいた時にはもう遅い。
何か薬のような物を首元に打ち込まれ、目覚めると狭い水槽の中だった。
(しまった……! 狂蠱は……!? 生け捕りのつもりか)
辺りを見回すと泡の隙間から、金と黒の艶髪が漂っていて安堵したのも束の間、目覚めぬ妹の肩を揺すり起こす。
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