赤い花に風ジワジワとセミがうるさい。縁側に掛けられた風鈴は1度か2度、音と取れるかどうかくらいの大きさで鳴っただけであとはだんまりだ。
「あっつ…」
思わず小夜の口から言葉が転げ出た。
梅雨が明けるかどうかの時期の突然のうだるような暑さに縁側の窓を全開にして大の字に寝そべる。滲み出る汗に目の上で切りそろえられた前髪が額に張り付く。背中の真ん中までの長い髪はバンズクリップでひとまとめにしたが、わずかに残された髪が首筋にまとわりついてしまい、しっくりとこない。
夫の恵一郎は買いたいものがあると出掛けてしまって小夜はひとり暇を持て余していた。少し家の事をしようかと思っていたがこの暑さだ、なかなかやる気も起きずにいた。特に外に出る予定も無かったので大きめのサイズのショートパンツに恵一郎の着古したTシャツといったラフな格好でいるので涼し気ではあるのだが、如何せん風がない。
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