涙どれくらい寝ていたのか薄く目を開ける。
薄いカーテン、のっぺらぼうな天井、硬いベッド。
あぁ、私は倒れたのか。
記憶を辿ると視界がぐにゃりと曲がった景色にたどり着き、ここが病院だと知る。
ふと隣に目をやると誰かが座っている。
「…たける?」
白衣姿の端正な顔の男がはっと目を小さく見開いてこちらを見た。
頬に涙の跡がある。
「ここ、健の病院だったんだね、ごめんね。」
まだ力が入らずに少し小さく震える手を伸ばしてそっと彼の頬に触れる。
それを覆うように彼の手が重なり、またポツリと涙が落ちた。
「無理しないでって言ったでしょ。」
コツンと優しく額同士がぶつかる。
「ごめんね、心配させて。で、でも今回はそんなに疲れてなかったんだよ、だから…」
「ちょっと黙って。」
怒気を孕んだ声音がしてすぐに口が塞がる。
暖かな温もり。柔らかい感触。
「…っ!!」
僅かに空いた隙間からぬるりと入り込み口内を蹂躙する。歯列をなぞられ、舌の形を確かめるように嬲られる。混ざり合う唾液の音と私の苦しげな声が病室に響く。
「っはぁ…!」
ようやく離れた彼の顔には僅かな怒りが含まれていたが、口の端についたどちらのものとつかない唾液を親指で拭って小さく笑った。
「帰って元気になったらお仕置でいいね。」
さっきまでの泣いていた顔はどこへ行ったのか…
まだ落ち着かない呼吸の中で見るその表情にまた倒れそうになる。彼の甘い香りに微睡んだまま、私はまたどこまでも落ちていくのだ。