懐かしい声を聞いたような気がした。
心地よい微睡から目が覚める。
気づけばすっかりと日は上りきり、散らかった部屋に暖かな光が斜めに射し込んでいる。
しばらく寝台でウトウトしていたが、喉の渇きに耐えかねてようやく骨が唸る身体を起こし、本が積み上がった部屋を見渡す。埃を飛ばそうと雑にかけた風魔法で散らばった書類も、そのままだ。
水で喉を潤し、端的にまとめられたレシピを見ながら調理に取り掛かる。う〜ん、レシピ通りにつくったはずだが味はどこか曖昧ではっきりしない。微妙だ。栄養だけは摂れているはずだから構わないだろうか。どこかくすんだ味の昼食をもそもそと食べ切る。
久しぶりに料理に関する本をひらけば、はらりと栞が音もなく落ちた。読んだことのないページに挟まれた栞の輪郭を指でなぞる。
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