「……あ、田中右先輩!」
春が来て、76期の先輩が卒業した。学年が上がり、過去にはいろいろと怖い思いもしたけれど、田中右先輩と仲良くなった。こんな言い方をしては紙屋くんに怒られそうだから表立って仲良しですとは言わない。でも、割と気軽に声をかけられるようにはなった、と、勝手に思っている。
「立花」
先輩は去年と変わらない様子──ユニヴェール公演のときのものではなく──で私の名前を呼ぶ。今でもパートナーに欲しいと言ってくるし、先輩後輩の立場は不変なので態度が同じなのも当然だ。ただ私が先輩を先輩として見るようになっただけ。
「何をしている」
休日にわざわざ校舎裏の人気のない場所を選んでいて、通りかかっただけでこの場所にも私にも用がなかったであろう先輩を呼び止めたのだから至極真っ当な質問だった。
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