青と呼ぶには薄く白んでいる天井があった。
空だ。
明けの空がある。
まだ高く日の登らない空を見上げる影があった。
全身を黒一色に染め上げた男、名を禪院恵と呼ぶ。
男は明けの空を淡々と眺めて、吐息をこぼす。
吐いた息は白く、宙を待ってふわりと消えた。
かぷかぷ、かぷかぷと笑い声がする。
ここは水の中ではない。クラムボンはここにはいない。
“蟹のお父さん”が“やまなし”を手に取って持ち上げた。
「めぐみくん」
幼子の声がする。
“蟹のお父さん”は慌てて影の中に隠れて消えた。
染め粉で染め上げた金糸の髪が朝日に照らされてキラキラと煌めいている。
“伏黒恵”と同じ、ターコイズカラーの瞳を爛々と輝かせて近づいてくる幼子は、ひたり。と手足を赤く染めながら禪院恵の裾を引っ掴んだ。
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