死を厭わず 死を願わず常に闇に沈む地底の奥底に、永遠に眠らない世界がある。
冥界の王子は、彼の居室で彼の伴侶と酒を酌み交わしながら、昼夜の別ない時間を過ごしていた。
眠らないといっても睡眠は存在する。ただし、存在の終わりを意味する永遠の眠りは訪れないのが、人間と神々との唯一の違いだ。
冥界を冥界たらしめる死というものが人格をもった存在──そんな表現をされることもあるそれが、ザグレウスの目の前にいるタナトスだった。
「さて…」
うーん、とまるで眠たいかのような伸びをして、ザグレウスは席を立つ。
「そろそろ仕事に行くとするかな」
人間が存在する限り終わらない仕事を抱えるタナトスを差し置いてザグレウスがそれを言うのは、どちらかといえば珍しい光景だった。
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