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    キツキトウ

    描いたり、書いたりしてる人。
    「人外・異種恋愛・一般向け・アンリアル&ファンタジー・NL/BL/GL・R-18&G」等々。創作中心で活動し、「×」の関係も「+」の関係もかく。ジャンルもごちゃ。「描きたい欲・書きたい欲・作りたい欲」を消化しているだけ。

    パスかけは基本的に閲覧注意なのでお気を付けを。サイト内・リンク先含め、転載・使用等禁止。その他創作に関する注意文は「作品について」をご覧ください。
    創作の詳細や世界観などの設定まとめは「棲んでいる家」内の「うちの子メモ箱」にまとめています。

    寄り道感覚でお楽しみください。

    ● ● ●

    棲んでいる家:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou

    作品について:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou/free/96135

    絵文字箱:https://wavebox.me/wave/buon6e9zm8rkp50c/

    Passhint :黒

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    キツキトウ

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    2021/7/19

    書きもの/「Wisteria」
    書き溜まっていたものを、ポイピクに縦書き小説機能が追加されたので置いていきます。ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいかもしれません。そしてもし誤字脱字がありましたら生暖かい目で見守っていただけると幸いです……。

    ※創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・何でも許せる人向け。

    #創作
    creation
    #小説
    novel
    #創作BL
    creationOfBl
    #BL
    #異類婚姻譚
    marriageOfADifferentKind
    ##Novel

    Wisteria(9)「Wisteria」について【項目 WisteriaⅡ】「隠恋慕」閑話1 「居眠り」閑話2 「メイドさん」閑話3 「そんなに恥ずかしい?」「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
    世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。

    R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
    又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。

    ※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
    【項目 WisteriaⅡ】
    「隠恋慕」
    閑話1 「居眠り」
    閑話2 「メイドさん」
    閑話3 「そんなに恥ずかしい?」



    「隠恋慕」

    「今日は出かけるのか?」
    「うん。欠けた像の修復や掃除をして欲しいんだって」
     先日、老人の姿をした妖がこの神社まで依頼に来ていた。その場所に向かう為、支度を終えた二人は神社を出る。
     鳥が囀り、秋に近い空気の中を涼しい風が通り抜けていく。色とりどりの葉と陽が造りだす木漏れ日の中を進むその途中、道の真ん中に白く小さな物が落ちているのを見つけた。
    「あれ?」
     気づいた藤が手のひらサイズのそれを拾い上げる。
    「誰かの落とし物かな……? 可愛いね」
    「張子の様だな。これは犬か?」
    「張子?」
    「型に紙等を張り付けて形作る方法だな。玩具に用いる事もあるらしい」
    「誰かが此処で遊んでいたのかな? 横に置いておこうか。此処だと壊れてしまいそうだし、誰かが探しに来るかも」
     すぐ横の、路傍の石の上にそっと乗せる。そして立ち去ろうと歩き出した時――
    『あそぼう』
    「え?」
     声が聞こえた気がして後ろを振り返るが、其処には何者も居ない。
    (気のせい……かな?)
    「どうした?」
    「ううん、なんでもない」
     気のせいだったのだろうと結論を出し、再び歩を動かした。


              ❖     ❖     ❖


    「すまんの忙しい所を」
    「依頼ですから。ここの所ずっと屋内で修復作業をしていたので、出かける機会が出来て嬉しいです」
     依頼主の翁面を付けた妖が、低い石堤の上に腰掛けている。その少し離れた場所には小祠しょうしがあり、その近くには台から倒れた石像が転がっていた。
    「そしてそっちが主神か」
     呼びかけに気づいた朽名がにょろっと藤の横から顔を出す。こうして藤にくっついている事が多いからか、神社で神をしているのは藤なのかと間違われる事もよくあった。
    「そうだ。よく分かったな」
    「勘という奴だな」
     カラカラと気持ちよく翁が笑う。つられた藤の表情も柔らかい。そしてふわりと姿を変えた蛇は、この翁面の妖に対して妙な親近感を得ていた。
    「して、仕事なのだがそっちの像がな、此方へ来た時に倒れてしまってな。ひびが入り、欠けてしまった。直してくれんか。ついでに周りも綺麗にしてくれると助かる」
     示されたその像は男女が寄り添っている形にも見え、罅はその二人を分かつ様に入っていた。そして端々が欠け、倒れたままである。
    「わかりました。俺が直すね」
     そう告げると朽名に持っていた桶と箒を手渡し、置かれた石像の修復に取り掛かった。その姿を見届けると桶に水を入れる為、蛇は一度その場を離れた。

    「此方に来て長いのか?」
     会話の向こうでは藤が石像と睨めっこしていた。それを眺めながら水滴が伝い落ちる桶を置き、声を掛けられた蛇は翁を見やる。
    「どのくらいだろうな。時間という物差しが無い此処で、それを測るのは難だな。だが、藤との付き合いは長いぞ」
     何処か誇らしそうに、そして嬉しそうに蛇が胸を張る。それを見た翁面が、笑みを浮かべた様にも見えた。
    「御身も長いのか?」
    「長いと言えば長いが、元の場所と行き来している分、短いとも言える。暫くは此方に顏を見せていなかったが、新しく神社が出来たと聞いてな。それと共に物を直すと聞いたので丁度好いと」
     藤へと向いた蛇と共に翁も其方を向く。
    「お前達、番なのだろう?」
    「……分かるのか?」
    「あの子に薄くお前の匂いが付いている。そしてお前にも。血を互いに飲んだのだろう? それが互いに染み込んでいるんだろうな」
     ふーと一つ、面の奥から聞こえてくる。
    「此の隠世で横暴な振る舞いをしだす者は早々いないだろうが、他世界ではそうとも限らん。そして此処は人の方が少なく、それ以外の者が多い。人だけの物差しでは測れない事もある。あの子は神の持ち者であるから、下手に手を出す者は少ないだろうが……中にはそれが大層美味そうに見える奴も居るだろうな。そうした中には無鉄砲な奴も居る」
    「誰にもくれてやる気はないぞ」
    「ああ。慕うなら、血ほど濃くは無いが目に見える形でも匂いでもなんでも。よく印を付けておいた方が良いぞ。儂等の様な存在はよくそうするだろう? 者によっては大事に閉じ込めておく奴も居るだろうな……お前もその口か?」
     否定しようとするが一瞬躊躇う。藤を閉じ込めるつもりは無いと言いつつ、本当は何者も触れない場所で大切に置いておきたい。そんな気持ちを奥へと押し込み、蛇が口を開こうとした時だった。
    「うん、これで大丈夫」
     向こうから嬉しそうな声が上がる。どうやら石像の修復が終わったらしい。腰を掛けていた翁が立ち上がる。
    「終わったか?」
    「はい。あとは掃除をするだけですね」
     罅が入り、所々欠けていた石像はすっかり元の姿を取り戻し、分かたれた二人は寄り添う姿を見せていた。頭上から降り落ちてきた木の葉を細い指が払い退ける。
    「良かった。直って」
     藤が像の二人に語り掛け、笑みを浮かべ一息つく。
    「子孫繁栄。栄えると好いな」
    「え?」
    「番なのだろう。ならばそう願っても好いだろう」
     翁が軽快に笑う。
     ……像と自分達、果たしてどちらに言っているのだろう。恐らく此方だろうか。言葉を向けられた藤は意図するその意味に気づき頭に浮かべ、後ろ姿からも顔が赤くなっている事がよく分かる。直接その表情が見れないのが残念だ。
    (……繁栄か)
     この場所も、自分達以外に様々な者達が棲みついている。永遠に今が続いていくとは限らない。藤が自ら離れる可能性だってあるのだから。


     石像の修復と掃除を終え、すっかり元の姿を戻したそれを、元の台へ戻そうと藤が手を掛ける。
    「重いだろう。私が台へ戻そう」
    「ありがとう。じゃあ、桶の水を捨ててくるね」
     水が入る桶を持ち上げ、藤は行き先を近くの水場へと方向転換する。やがて朽名が台座へと像を戻した時だった。
    『あそぼ。あそぼ。さがして、あなたのたいせつなもの』
     突然、カランッと後ろから音がする。咄嗟に振り返ると其処には藤が持っていった桶だけが倒れていた。その光景に勢いをつけて立ち上がる。
    「探せ、蛇」
     先まで軽快に話していた翁の声が、警告を含んだ重さになる。
    「気を付けろ。この世では落としたもの、捨てたものは呑まれる。何かを落としては『もういい』と諦めた時、それはお前の手の中には二度と戻らんぞ」
    「お前……妖ではないだろう」
     ずっと自分に漂う妙な親近感。小祠を持ち物に持つその者へと問いかける。
    「長く存在してるだけの、ただの老いぼれだよ」
    「忠告は有り難いが、手放す気は無いんでな」
     見つからない筈が無いと言う様な、不安など一切浮かばぬ顔で、微かに響いてる小さな音に向かって走り出して行った。
    「やれ、若人達は忙しない」
     消え去っていった場所を見つめ、一つ息を吐いては面の髭を撫でる。
    「まぁ、あれなら大丈夫だろう」
     静かな空間に独り呟くと、翁面を付けその人物は其処から姿を消していった。


              ❖     ❖     ❖


    (何処だろう……此処)
     頭を抱え起き上がる。何だか薄暗く、周りを沢山の物に囲まれていた。その狭く薄暗い雰囲気が、過ぎ去った筈のあの家を思い出させる。ぼうっと暗い影を見つめる。しかし我に返り、振りきる様に脳裏からそれを追い出した。
    (何で此処に居るんだっけ……? ……確か……何かに…引っ張られた様な……?)
     直ぐ近くの壁に背を預けて思案する。けれど薄暗さと孤独感に、自分の中が不安で押し潰されて冷や汗が肌を伝っていく。
    (怖い……)
     そうして思考が苦しさに飲まれかけた時だった。項垂れた拍子にちりんと耳元で小さく音が響く。
    (あ……)
     淡く鳴る音が少しだけ自分を引き戻してくれる。これをくれたのは大好きな神様だ。まだ苦しさは感じるものの、此方へ移り棲んだばかりの頃に比べると今はその冷たさが薄らいだ気がする。一度目を瞑り、息を体の奥へ送り込んで気を落ち着かせると、まずは此処が何処なのか探る為に見渡す。
     ――すると目の前に小さな子供の様にも見える妖がふわりと現れ、その人物は無邪気に藤へと話しかけてくる。
    「カクレンボ、かくれんぼ」
     ふわふわと、嬉しそうに目の前の小さな妖はお喋りをしだす。その声は少し前に聞いた声と似ていた。その小さな妖は藤に危害を加える分けでも無く、その場でパタパタと腕を動かしている。
    (もしかして……遊んでるつもり…なのかな……?)
    「……だめだよ、突然こんなことしたら…びっくりしちゃうよ……」
    「びっくり……? だめ?」
     藤が答えた事でより興味が魅かれたのか、藤の近くへと寄る。
    「うん、だめ。ちゃんと、相手に聞いてからじゃないと……」
     苦しそうに息を吐くと、小さな頭へ手を伸ばし撫でる。獣の耳の様なものが、置かれた手と同時に伏せられていく。……よく見たら後ろに見える尻尾がぱたぱたと動いていた。
    (……かわいい)
    「きく?」
    「うん。驚かしたら……遊び相手居なくなっちゃうかもよ……?」
    「! やだ」
    「うん」
     安堵し、手を頭から離そうとすると妖が藤の手に擦り寄ってくる。そのままよしよしと撫で、溜息を吐き出すと、不安と緊張を和らげる為に藤はそっと目を閉じた。


     音を辿り、行きついたのは小さな物置だった。
     誰かしらが管理しているものだろうが、そんな事は気にも留めずに蛇は勢いよく扉を開く。視線の先に居たのは意識を手放し、壁に凭れる藤だった。その姿が何時かの恐怖を引き寄せる。
    「大丈夫か、藤」
     一見外傷も無く、ただ静かに眠っているだけのようだ。だが、呼びかけても返事が無い事が更に蛇を焦らせる。
     そんな場面に現れたのは藤を隠した張本人だった。
    「つぎはなにしてあそぶ?」
     そっと現れた妖は小さく首を傾げる。
    「……お前か? 藤を隠した者は」
    「゛うっ」
     普段の穏やかさからは想像出来ない程の鋭い目つきで睨み、相手の喉元を抑え込む。だが、その行動を朽名の裾を掴んだ手が遮る。
    「くちな、大丈夫だから……その子…離してあげて」
     目を覚ました藤に止められる。抑えていた手を相手から離すと、開放された妖はケホッと小さく咳を吐くと姿を消した。
    「無事か? 怪我はしていないか?」
    「うん……大丈夫だよ」
     見慣れた顔に安堵し、弱々しい笑顔を作りだす。
    「なんで…わかったの……?」
    「前に言っただろう? 酒の方が効果が大きいと。番っているからより見つけ易い。あとは……これだな」
     藤の耳元で揺れる鈴に触れて揺らす。それは淡く音を立てると、また静寂を取り戻した。
    「これが方向を教える」
    「そっか……本当にお守りだったんだね」
     鈴に触れてふわりと笑う。
     何時もの笑みを取り戻した藤に、蛇はそっと安堵の息を吐く。
    「彼奴は何がしたかったんだ……?」
    「あの子は遊びたかっただけみたい。でも、ちゃんと怒っておいたから大丈夫」
     蛇は今度は大きく溜息を吐く。
     藤の性格上、恐らく厳しい叱り方はしていないのだろう事は想像に容易い。自身が隠されたのにこうして許しているのは、それはもう藤の性質なのだろう。
    (まったく……本当に誰も触れぬよう、何処かへ閉じ込めておこうか……)
    「……帰るか?」
    「うん」
     その言葉に藤が立ち上がろうとする。けれど突然、ふわりと身が浮く感覚が襲った。
    「えっ」
     蛇に体が掬われ、抱えられていた。見上げると間近に相手の顔が現れる。
    「……降ろして」
    「駄目だな」
    「こ、このまま歩いてくの……?」
     人中ひとなかをこの姿で歩き回るのは恥ずかしい。すでに染まりつつある顔で訴えかける。早く、今すぐ降ろしてほしいと。しかし意に返さず蛇は答えた。
    「危機感の無いお前への……まぁ、罰だな」
    (うっ……)
     そう言われると受けざるを得ない。どうにか反論の言葉を探すが、やがて観念した藤は赤い顔を伏せた。そして歩き出そうとした蛇だったが、そういえばとふと思い出す。
    「ああ、そうだ」
    「な、なに?」
    「箒と桶はあそこに置いてきたぞ」
    「……やっぱり降ろして」
    「駄目だな」


              ❖     ❖     ❖


    「あれ? 君」
    「うぅ……」
     あれから幾日か経った後の事。
     あの時の子が、境内で掃除をしていた藤の裾をそっと握っていた。
    「また……あそんで?」
     小さく呟く子に合わせてしゃがみ、視線を合わせる。
    「だめ?」
    「いいよ。だけど掃除終わるまで待ってて」
     嬉しかったのか、藤の言葉に目を輝かせるとぴょんぴょんと跳ね始める。そしてまた藤の元へ来ると、何かを差し出してきた。
    「あげる」
    「ん?」
     ひょいと手に置かれたのは、あの時に拾い上げた物とは違う犬張子だった。
    「くれるの?」
    「うん。これでいっぱい。たくさんあそべる。いっぱいできるお守り!」
     そして変わらずぴょんぴょんと跳ねる。そんな嬉しそうな様子に藤は思わず笑みを浮かべた。
    「ありがとう」
    「……おい、藤」
    「うっ……」
     突然かけられた声に体が跳ねる。何時の間にか後ろに居た蛇の視線が痛い。
    「だ、大丈夫! 良い子になったよ! ね?」
    「なった!」
     ぐっと藤が片手を握り、聞かれた子はきらきらした目で万歳をして勝ち誇っている。そんな二人の様子に大きな溜息を蛇は零した。
    「……確かにもっと印を付けておくか」
    「? 印?」
     ポンと藤の頭に手を乗せると、がしがしと撫でまわす。
    「え? なに?」
     よく分からない行動に、藤の脳内にはてなが浮かび、同時に撫でられているその反動で頭がゆらゆらと揺れ動く。
    「……これからは、私のものだと印を濃く残しておこう。今夜が楽しみだな」
     にっこりと笑みを浮かべた蛇に、藤の背には悪寒が駆け巡る。そんな蛇の企みは、絶対碌なものではないだろうと予想しながら、降り継ぐ木の葉を片づける為に境内の掃除を再開した。



    閑話1 「居眠り」

     家事も依頼も片づけて、ふーっと息を吐き出し伸びをする。少しだけ休憩しようと、藤はソファへと腰をかけた。
    「茶でも入れてきてやろう」
     そんな藤の様子を見かね、朽名はスクッと立ち上がる。
    「ん…ありがと……」

     蛇が戻ると、藤は疲れからかウトウトと船を漕ぎ始めていた。卓上に置かれた茶器がカチャリと声を上げる。
    「藤、眠いなら寝室に行くか? 運んでやるぞ」
     微睡む藤の横に座ると、冗談交じりにそう提案する。
    「ほら、藤。おいで」
     何時もの様に恥ずかしがる姿を蛇は想像していた。藤を寝具まで運ぶ為に抱えようとする。だが……
    「ん…」
     薄く返事を返した藤は寝惚けているのか、朽名に近寄ると膝の上に登りそのまま眠ってしまった。


              ❖     ❖     ❖


    「……ん」
     あれからさほど時間は経っていないだろう。
     頭を撫でて膝の上で眠る藤の表情かおを堪能していると、やがて小さく声を漏らし、閉じていた瞼が開かれていく。
    「!?」
     最初はぼーっとし、膝の上で静かにしていた藤だったが、自身の違和感に気づくと眠そうな顔を驚きの顔へと変える。
    「ああ、起きたか」
    「えっ……な、なんで」
    「お前から登って来たぞ」
    「う、うそ」
     満更でもない蛇がくすくすと笑う。その言葉を聞いた藤は慌てて降りようとするが、がしりと蛇に捕らわれてしまった。
    「ははっ、お前は可愛いな。何時もそうやって甘えてくれれば好いものを」
    「っ!」
     蛇の言葉が恥ずかしかったのか、自分の行動が恥ずかしかったのか。蛇から視線を反らすと真っ赤な顔を手で覆い隠す。何時にも増して上機嫌な蛇は未だ離さず、すりすりと藤が抱える頭に頬ずりをし始める。
    「はぁ……」
     蛇は嬉しそうにしているし……と、藤は仕方なく羞恥を飲み込む為、傍に置かれていた湯呑へ手を伸ばした。



    閑話2 「メイドさん」

    「ほう、これが異国のメイドとやらの服か? よく似合っているじゃないか」
    「嬉しくない。……表を掃いていたら通る人や依頼者にじろじろ見られたし…恥ずかしい……」
     掃除から戻って来たらしい藤が、居間で寛いでいた朽名の元にやってきた。頬を赤くし、言いながら自身が着るスカートの裾を手で引っ張り、脚を隠そうとする。
    「ほう……」
     それを聞いた朽名が視線を逸らさずに、じりじりと此方に近づいてくる。
    「な、なに?」
     疑問を口にしても止まらずに近づいてくる朽名から、距離を取ろうと後ろへ下がる。――だがその際に躓き、後ろへと尻餅をついてしまった。
    「う、痛……」
     倒れた拍子に着崩れた服を直そうとする。しかし相手によってその手を掴まれ、止められてしまった。
    「ああ、直さなくていいぞ。これから脱がすんだからな」
    「え?」
    「頼み事を聞くのがメイドの仕事なんだろ?」
    「いや、確かにそう説明されたけど……」
    「なら、仕事はちゃんとしなくてはな」
    「うっ」
    「最近は依頼や家事ばかりにかまけてたからな。今日は私と一緒に遊んでおくれ、藤」
    「えぇ……」
    「ほら、藤」
     困惑する藤の唇を、親指の腹でなぞる。
     どんなに駄々を捏ねたとしても、何時までも待つと言う様に、じっと此方を見つめてきた。
    「~っ」
     表情一つ変えない朽名に、根負けしたのは藤の方だった。そっと両の手を相手の頬に添えると、ゆっくりと藤から口と口を合わせる。軽くその唇に触れていた藤は、やがて戸惑いながらも少しづつと呼吸を速めていく。
     やがて離されたその場所には自分と向こうへ伝う糸の橋が出来上がり、意識が絡め奪い取られていくのを感じてそれが空になる前に再び口を合わせた。
     一つ二つと旅立ってゆく白と黒を見送りながら。



    閑話3 「そんなに恥ずかしい?」

     街の喧騒、人も死者も人外も。様々な者達が闊歩する雑踏の隙間から、何やら声が聞こえてくる。
    「い、いやだ」
    「そんな恥ずかしがる事じゃない」
     じりじりと人へ姿を変えた蛇が迫りくる。それに押され、藤が一歩足を引いた。嫌々と頭を振る。
    「は、恥ずかしいよっ! 他に見てる人も居るのにっ」
    「恥ずかしくなどない。番なら当たり前にするぞ、意地になる事はない」
    「あ、当たり前……?」
    「ああ、そうだ」
     満面の笑みで蛇が答える。同時にこくりと自ら肯定するよう頷くと、同意を得るように傍らに居た二人へと目を向けた。
    「んー、まぁするんじゃない」
    「するだろうね」
    「……」
     藤が動揺した様に目を泳がせ辺りを見る。友人二人がそれをじっ見守った。やがて観念して口を開く。
    「……わかった」
     恐る恐る自らの手を、自分へと伸ばされた手へ重ねる。伸ばされた相手はその手を逃がさず捕らえると、指を絡めぎゅっと握った。その行為がまた一つ、藤の頬を赤くさせる。


     始まりはトウアが言った「人が多いから二人とも手を繋いだ方がいいんじゃない?」という言葉。人が多いこの場所で、歩き慣れておらず、線が細い藤はもしかしたら人込みに流されるのでは? と感じた事からの提案だった。
    「まぁ、番じゃなくてもするけどね。迷子になったら困るから……耳まで赤いね、藤」
    「恥ずかしがり屋だもんね。……わぁ、朽名すっごい笑顔」
     見た目だけならば藤よりも幼い筈のルカとトウアの二人が、その大げさな光景を笑みを浮かべ見守っていた。

     出会い方のせいなのか、藤の性質のせいなのか。色々と順序をすっ飛ばし、なぜか拙い二人が今日も日々を楽しみ、謳歌する。死者も謳歌するこの隠世の中で。




              - 了 -
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