「はぁー…つかれたぁ…」
なんとも気怠げな声を漏らしながらツバサは自室のベッドの上に倒れ込んだ。
マナリア学園を卒業したツバサはタイガの単車の工場で働かせてもらっていた。
そこでは毎日が忙しく、ゆっくり出来る日は2日あるかないかであった。
立派な魔法使いになると宣言したものの、実際何をすればいいのか、何を目標にすればいいのか明確なビジョンもないまま卒業を迎えてしまった。
エルモートのように先生、ということも考えたが、魔法は使えても勉強はいうほど得意ではなく目指すまでには気が向かなかった。
このままぼんやりと過ごしてしまうのか、そんな事を悩みながらも時は過ぎていく。
「……ショウの卵焼き食いてぇな…」
ふと、ぼんやりと天井を眺めながらそんな事を思う。
何度か振る舞ってもらってはいたが、ここ最近忙しく半年くらいはショウと顔も合わせていなかった。
ショウはというと、特級で知り合ったマブ達と色々な所を回りながら奉仕活動に尽力していた。
自分よりもやりたい事が明確にあるショウがツバサにとってはとても輝いて見えた。
ショウは自分のことを光を灯してくれたと言ってくれたが、今はショウの方がツバサにとって羨ましい存在になりつつあった。
「…電話、してみっかな…」
ツバサはふと思い立って自分のスマホを手に取って電話帳を開く。
電話番号は教えてもらったが、実際かけた事があるのは3回しかなかった。
(…出るかな)
そんなツバサの心配を他所に、ショウはものの3秒で電話に出た。
「出るのはえぇよ!!」
『あ?お前からかけといて何言ってんだ』
「あ、確かに。いや、たいした事じゃねぇんだ。…ただ、ちょっと、お前の作った卵焼き食べたくなっちまって」
電話越しに照れ臭そうに話すツバサにショウはため息をついた。
『それで電話したのか?』
「あー…まぁ…うん」
『…OK。明日は夕方からなら空いてる』
「じゃあ、明日お前ん家行っていいか?」
『ああ』
「あんがと。じゃあ、また明日」
会う約束を取り付けたツバサは久しぶりの逢瀬に色々な事を考えた。
あったらまず何を話そうか。やはりお互いの近況報告か。
泊まるのか、その日で帰るのか、などなどキリのないくらいに考えが出てきてツバサはその日あまり眠れなかった。
適度な寝不足のままショウの自宅に向かい、心なしか足取りも軽く街を歩く。
マナリア学園に通っている時は通り道だったそこは何一つ変わらず賑やかで、辺りを見回して一つ一つ懐かしむ。
そこにはショウの姿もあってちゃんと脳裏に残っている。思い出すたびに笑みが溢れる自分に気がついてツバサははっとする。
(…つうか俺…どんだけショウ好きなんだって話じゃねぇか、これじゃあ!)
そう思ってしまい頬を赤らめるツバサに通りかかった猫がにゃあと話しかけるように鳴いた。
「…俺、平常心でいられっかな?」
猫は何かを言いたげにひと鳴きしてにやけるツバサの顔を見てさっと去っていった。
到着まであと少しだ。
ドアの前でツバサは身なりを整えた。ふぅと息を吐きインターフォンを押す準備をする。
(…ここは平静を装って…よう、久しぶり、元気だったか?…いや…溌剌とショウ!久しぶりだな!しばらく見ないうちに垢抜けたな!…いやいや)
対面した時のシュミレーションをしながら呟いていると、目の前のドアがいきなり開いた。
ゴンっ!
「いっ、てぇ!!?!」
「何してんだツバサ、早く入れよ」
「なんだよ!急に開けるなよな!いてて」
「気配がしたから開けただけだ」