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    えー

    jbhw_p

    PAST2024.6.25に開催された北渉オンリーで無配として用意したグラデュエーションネタの北渉です。最近フルボイスでストを読み直して、屋上でのシーンに想いを馳せながら書いたことを思いだしました。
    春の日に 屋上を吹き抜けていく風は季節の移ろいを感じさせる。柔らかく、それでいて激しく。まるで嵐のようだと北斗は思う。鳥籠を手に柵の近くへ歩み寄ると、眼下にはすっかりと蕾を開いた桜の木がワサワサと喜びを寿ぐうように風で揺れていた。時々、北斗のいる屋上まで桃色の花弁が運ばれてくる。おだやかで、それでいてどこかさみしい季節だ、と北斗はこの季節が巡る度に感じた。いや、そう感じるようになったのはここ一年の話だったかもしれない。送り出す側から送り出される側になった今、思うことは一つだ。
     自分はこの学び舎で、いったい何を得て、何を残すことができたのだろう。卒業が近づくにつれ、考えるのはそんなことばかりだ。卒業した後も人生は続いていく、今までもこれからもアイドルと役者の二足の草鞋で活動していくことに変わりはない。ESが設立されてから(苦労はあるものの)仕事の幅も広がり、Trickstarとしても勢いづいているところではある。
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    matumi_nana

    DONE俺寂 救われてえー


    「……あの時あなたに出会えてなかったらァ、おれェ、ウッ、グス、」
     神宮寺寂雷は目の前で肩を振るわせ泣き続ける男に、ゴム手袋を外しながらやんわりと微笑んだ。
    「医者として当然です。あの時あなたは肋骨を折っていたんですよ。胸の起伏がおかしいのでもしやとは思いましたが、あの状態で立ち上がるなんて驚きました」
    救われてえー「ッ、おれは今の今まで死んでいたんです」

     最初に断っておくが、新宿歌舞伎町の地面は社会悪の煮こごりである。倫理から外れた有象無象の恥と処世の落とし穴が全面に敷きつめられ、そのうえには物理的に霧散した安酒とオーバードーズの温床と性病の成れ果てとヒトの悪意、そして大量に人間のゴミが横たわっている。それはおれのことである。今日もおれはいつも通り汚れた寒空の下で冷たいコンクリートに後頭部を押しつけながら鈍色の曇天を眺めていた。目に映る季節はこうやって地面に這い蹲るうちはずっと変わらず、今もヤニの浮かぶ曇天の空に無駄な二酸化炭素を吐き出している。息を吸い込むとその煙たい空気に心臓が重たく寝そべっていて居心地が悪く、吐き出すので精一杯だった。ただ、ため息をつけどもそれを拾ってくれる人間もいなければ空気すらもおれのためには存在してないのである。映画館の横道から繁華街に向かううら若い少女たちにさえ、その純できらめきに閉じ込められた永遠の瞳さえ、おれを見る時は冷たく曇るのである。とはいえ泣く元気も絶望する元気ももはやなく、ただゴミという自認だけを頑なに守って、案外気楽な毎日であった。
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