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    たなべ

    犬と暮らしたことがない

    DONEきんじょうさんがわたなべのそばから居なくなる時の話
    CPっぽい要素はあまり無い(つもり)ですので表記ないです
      その年の七月中頃、東京都立花木高等学校硬式野球部は全国高等学校野球選手権西東京大会の三回戦にて、その夏を終えた。
     三年生主将・金城捕手の表情は、最後の夏の幕引きに際して、清々しく澄んでいた。
     氷河や星明に比肩する実力校を相手に八回を無失点で抑えて互いに譲らぬ投手戦であったが、九回裏、高めに浮いた渡辺の球が捉えられて緩やかな放物線を描くと、ポール際すれすれを内側に、白球は静かに落ちた。キャッチャーマスクを取ってサヨナラの打球を遠く見送る金城の眼差しは七月の快晴の空を映すほどにも澄み渡って、その表情は寂しくもどこか晴れ晴れとしたものであった。
     試合後も、金城は涙が一滴も出なかった。決して、全力で戦わなかったというわけではなかった。リトルリーグ、リトルシニア、高校野球部と、長らく野球漬けで過ごしてきた日々にここで区切りがついて、様々な記憶や感情が張り裂けそうなほど胸のうちに満ちては巡り溢れていたが、彼自身も意外に感じるほど、涙がその頬を伝うことはなかった。
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