ハルはもう弓道やらないのか？

んー学生時代ちょっとやったけど　就職するとなかなか時間がねー

…かっこよかったのに

ファッ！！！？？？ほほほ褒めても何も出てこないからね！？
（道具一式取っておいてよかった——！！）

またやるなら見物したいから教えてくれ

んー正直ライトさん居ると集中しづらい…
もの欲しそうな目で熱っぽい視線送られるの
すっごい困る

誰がそんな事したよ！？

貸切の弓道場で声が枯れるまで泣かせたの忘れちゃった？

（思い出し中）…俺がやりました

人前であんな顔されたら周りも困っちゃうよ
見た奴らいちいち始末するの大変だし

物騒な単語出てきたな

ライトさんは自分が猥褻物だって自覚持った方がいいよ

ひどい言い草だな　会社で煙草控えろってのもそういう事か？

哀しいほどに綺麗で、はしたないくらいに清廉潔白で、溶けるほどに甘い「……？」
彗は川の近くの草むらでまばたきを繰り返していた。川の流れる音と青々とした草のざわめく音以外何も聞こえない。

「ここは……」

額に手を当てる。
考える気力すらなく、所々汚れたシャツに登る蟻を見つめていた。

彗は草むらの中で目を覚ました。
風と流れてゆく川と共に身を任せていた。さっきまで何をしていたんだっけ…自分の名前や一般常識以外何もかも忘れてしまっていた。

それもそのはずだ。医者は「記憶喪失」と告げた。名前や一般常識を除いて、すべてが霧のように失われたのだ、と。


「センパイ」
「…？」

またぼんやりとしていた。
焦点の合わない目で初夏の庭を見ていた。
先程雨が降ったようで、庭の緑や開花寸前の花は濡れている。