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    ボッチ

    ciff_2

    DONE友達が夏風邪をひいたのでひとりぼっちで学校へ行くはなし
    夏風邪 一二三が夏風邪をひきました。だから俺は、学校につづく畦道をひとりで歩いていました。近道です。草いきれのにおいをたどり、この先にある林を抜ければ、学校の運動場に出るのです。一二三のいない通学路は、とても静かでした。ぬるい南風が夏草を撫でていく音。水田で蛙が跳ねる音。民家もないのにどこからか響いてくる風鈴の音。いままで気にもしていなかった物音が、やけにうるさく耳につきました。でも、とても静かだったのです。なんだか自分だけ、べつの世界に取り残されたような感じがしてずいぶん心細い思いがしました。それでも学校には行かなければなりません。俺はびくびくしながら畦道を抜け、やがて林に足を踏み入れました。どっぽくん、いっしょにがっこういこう。そのとき不意に背後から、声をかけてくれた同級生がいました。聞きおぼえのあるような、ないような声でした。振り返ってみると、見おぼえのあるような、ないような顔でした。薄情です。俺は同級生の顔もおぼえていなかったのです。そういうふうだから、いつまで経っても友達ができないのでしょう。俺は、とまどいつつも頷きました。うれしかったのです。俺なんかと学校に行ってくれるひとが、一二三以外にもいたことが。それからいろんな話をしていっしょに歩きました。はい。楽しかったですよ。どんな話をしたか、ですか。・・・すみません。俺、おぼえていないみたいです。たぶん、近道の林を行くあいだ、ずっと蝉の声がうるさかったせいです。うるさくて、とにかくうるさくて、思い出そうとするとなにもかもをぶつんと遮ってしまうのです。
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