地の文に悩んでて進まないやつ（夏旬夏）　ページをめくるたびに記憶がよみがえってくるものだから、旬はたまらず本を閉じた。しかし、冬美邸の書斎の中で明らかに浮いていたその本をそのまま置いていくのはためらわれた。場違いな本を片付けたいのではなく、この本を見つけてしまったからには置き去りにはしておけないような気がしたのだ。旬は本を自室に持ち帰ったが、なぜか胸がそわそわして読む気にはなれず、結局、一旦学習机の一番の下の引き出しの奥にしまっておくことにした。


「……妖怪図鑑……？」
　夏来はきょとんとした様子で旬の言った単語を復唱した。
「なんだ、覚えてないのか？」
　旬は拍子抜けした。
「うん、ごめん……ジュン……」
「謝らなくていい。僕も昨日まで忘れてたし」

最後の食事も、君と「最後の日には何が食べたい？」
　そう言い出したのは燭台切で、元を辿れば防人作戦という何の先触れもなく始まったそれの痕跡を引きずり、いつとも知れない最後の日を誰ともなく憂い始めたのが切欠だった。七年も過ごしていれば切替えも早いもので、投げられた正答等ない戯れに皆くすくす笑ってああでもないこうでもない、と話に花を咲かせていく。何より肉の器とは、こと食に関しては正直なものだ。

「伽羅坊は何が食べたい？」
　鶴丸が、傍らの大倶利伽羅に訊く。カップのバニラアイスを黙々と食べ進めていた大倶利伽羅は、顔を上げ鶴丸を見たままじっと考える素振りをすると、そのまま鶴丸を指差した。
「人を指差すのは行儀が悪いぜ？」
「アンタもするだろう。」