スマホを片手に深呼吸。
よし、やるぞ……！
画面をタップすると映像が再生される。
先日開催された2nd D.B.R ナゴヤVSシンジュクの中継映像だ。
次に出場するときは絶対に空却さんと獄さんの足を引っ張らないようにしないと……！
敗退を経て、十四は次のバトルに向けて
まず始めにこの前のバトルから反省点を見つけてっと……
バトルはシンジュクの先攻に始まり、互いに強力なラップアビリティを披露していく。

2人に庇われながら必死に食らいつく自分の姿はとても情けなかった。
目を背けたくなる気持ちを押し留め、映像を注視し続ける。

バトルも後半へ突入し、強力なアビリティに失格者が続出し、最後は天国獄と神宮寺寂雷の一騎打ちとなった。

フィルム映画だったらよかった映像はたくさん残っている。ライブ映像、ドラマやバラエティ番組の録画、インタビュー。プライベートで保存しているサークル活動の映像や、それこそEdenの四人で出かけた際の映像なんかもある。それでもいつも見返してしまうのは、無音の、白黒の、閣下が微笑んでいるだけのほんの十秒にも満たない動画だ。
その日は雪が降っていて、閣下はそれが心底嬉しかったらしくビデオに収めようと俺に提案した。そのまま雪原と化した中庭に走り出すものだから俺は慌ててスマホのカメラを起動してビデオ撮影を始めた。指が滑ってモノクロになってしまい、失敗したと気づいてすぐに撮り直した。その撮り直す前の映像がこれだ。
一面真っ白な中にまぎれそうな閣下の背中。銀の髪の毛とグレーのコートのせいで背景と同化しかけていた閣下が、くるりと振り返る。俺がカメラをきちんと構えていることを見とって、にこりと、無邪気に笑う。ただそれだけの、何の変哲もない動画。