暁
ことざき
DONEモブ視点の、花を贈る青年の話。(K暁)花を贈る人 数日ごとに来店し、花を買っていく若い男性客がいた。
花は決して安い買い物ではない。その頻度だけでも記憶に残りやすいが、なによりも私の胸に焼き付いていたのは、彼が醸し出していた雰囲気だった。
彼は清潔感のある身目よい青年だったけれど、いつもこわばった翳のある表情をしていて、顔色もあまりよくなかった。見た目どおりに礼儀正しい人で、私や他の店員と言葉を交わすときだけは笑みらしきものを浮かべるものの、会話が終わればまた思い詰めた表情に戻ってしまう。受け取った花を見下ろす彼の目には、底知れない絶望が浮かんでいるように見えた。
事情は少しだけ知っていた。彼が初めて来店したときに、「お見舞い用の花はありますか」と訊かれたからだ。どうやら彼の妹が入院しているらしく、少しでも病室を華やかにしたいとのことだった。そのときに、たとえ差し色であっても、赤色や赤みを帯びたものは絶対に入れないでほしいとも言われた。そう要望を出したときの彼の声は、少しふるえていた。
2333花は決して安い買い物ではない。その頻度だけでも記憶に残りやすいが、なによりも私の胸に焼き付いていたのは、彼が醸し出していた雰囲気だった。
彼は清潔感のある身目よい青年だったけれど、いつもこわばった翳のある表情をしていて、顔色もあまりよくなかった。見た目どおりに礼儀正しい人で、私や他の店員と言葉を交わすときだけは笑みらしきものを浮かべるものの、会話が終わればまた思い詰めた表情に戻ってしまう。受け取った花を見下ろす彼の目には、底知れない絶望が浮かんでいるように見えた。
事情は少しだけ知っていた。彼が初めて来店したときに、「お見舞い用の花はありますか」と訊かれたからだ。どうやら彼の妹が入院しているらしく、少しでも病室を華やかにしたいとのことだった。そのときに、たとえ差し色であっても、赤色や赤みを帯びたものは絶対に入れないでほしいとも言われた。そう要望を出したときの彼の声は、少しふるえていた。
akibin02_gwt
DOODLEKと暁と町中華。何でもない話なんだけど、暁君と食べに来るようになってから、サービスのデザートを暁君にあげるようになったKおじって良いなって思って。またの名を飯テロ 1719
ことざき
DONE24年5月の、#毎月25日はK暁デー に参加させていただきました。お題は『傘』『真夏日』『ネクタイ』。
プレゼントしあうK暁です。
贈り物ラプソディ 交番勤務時代の何が嫌だったかといえば、夏場の防刃衣だった。とにかく暑い。あれを着て炎天下に立っているのは、拷問以外の何物でもなかった。
刑事になって、あの暑苦しさから解放されたと思いきや、今度はネクタイに首を絞められる毎日だ。おまけに〝職務にふさわしい服装〟とやらを自分で用意する煩わしさまでついてきた。いったいなにが悲しくて自分で自分の首輪を買わなきゃいけねえんだか。あれのなにがどう〝相応しい〟のか、さっぱり分からねえ。
今だってそうだ。こうして、祓い屋などと呼ばれるヤクザな商売に就いて、今度こそ堅苦しい格好からオサラバできるはずが、「こんな商売だからこそ依頼人に信用されるようにしろ」との凛子サマからのお達しだ。オレは切った張ったの実働部隊だぞ。依頼人に会ったその足で怪異に遭遇することもあるんだぞ。やってられるかってんだ。
6413刑事になって、あの暑苦しさから解放されたと思いきや、今度はネクタイに首を絞められる毎日だ。おまけに〝職務にふさわしい服装〟とやらを自分で用意する煩わしさまでついてきた。いったいなにが悲しくて自分で自分の首輪を買わなきゃいけねえんだか。あれのなにがどう〝相応しい〟のか、さっぱり分からねえ。
今だってそうだ。こうして、祓い屋などと呼ばれるヤクザな商売に就いて、今度こそ堅苦しい格好からオサラバできるはずが、「こんな商売だからこそ依頼人に信用されるようにしろ」との凛子サマからのお達しだ。オレは切った張ったの実働部隊だぞ。依頼人に会ったその足で怪異に遭遇することもあるんだぞ。やってられるかってんだ。
akibin02_gwt
DOODLE本当はもう少しちゃんと怪異退治パートも書きたかったのですがとりあえずライト版。学校にはやっぱり怪異がいたのです。そりゃ居るでしょう、学校だし。
子どもと暁君には甘いKおじっていいよね。 1550
もちこの本棚📖
DONE過去に幽霊けけシリーズの短編で書いたものを加筆修正しました。お題は「傘」をお借りしています。幽霊けけシリーズってなぁに?という方は本編後の暁人くんの元に幽霊として帰ってきたKKが再び一心同体状態で生活を共にしている、という設定が前提にあるおはなし、と解釈していただければ…!
(過去作を読んでいただけると尚のこと嬉しいです………!)
幽霊の相棒と、傘と ――スマートフォンのアラーム音が鳴る。
うーん、と軽く唸りながら暁人がスマホに手を伸ばし、画面も見ずにアラーム解除をタップした。まだ眠り足りない暁人が再び眠りにつこうとすると、突然金縛りにあったように体が動かなくなり、目がバチッと開かれ閉じることが出来なくなる。ずしり、と体の上に何かの重さを感じ、恐る恐るソレの正体を確認…することはなく
「けぇけぇ……金縛りで起こすのやめてくれる…?」
寝起きの少し掠れた声で暁人が困った顔をした。
『こうでもしないと起きないだろ、オマエ』
金縛りを起こしたのは幽霊の相棒である、KKの仕業だった。霊体姿で暁人の上に胡座をかいて座っている。
「大丈夫だよ……二度寝したって間に合うようにアラームセットしてるんだから……」
1352うーん、と軽く唸りながら暁人がスマホに手を伸ばし、画面も見ずにアラーム解除をタップした。まだ眠り足りない暁人が再び眠りにつこうとすると、突然金縛りにあったように体が動かなくなり、目がバチッと開かれ閉じることが出来なくなる。ずしり、と体の上に何かの重さを感じ、恐る恐るソレの正体を確認…することはなく
「けぇけぇ……金縛りで起こすのやめてくれる…?」
寝起きの少し掠れた声で暁人が困った顔をした。
『こうでもしないと起きないだろ、オマエ』
金縛りを起こしたのは幽霊の相棒である、KKの仕業だった。霊体姿で暁人の上に胡座をかいて座っている。
「大丈夫だよ……二度寝したって間に合うようにアラームセットしてるんだから……」
subaccount3210
DONE #毎月25日はK暁デー「ネクタイ」「真夏日」「傘」
一度没にしたら短くなってしまいました。今日運動会のところ多いのでは?
「何で地域の運動会なんか……」
ぶつくさと文句をこぼし続けるKKを宥めながら赤く平たい紐を首に回し緩く結ぶ。
「ネクタイじゃねえんだぞ」
「いいからいいから、仕事だと思ってさ」
実際に仕事である。どうもこの伝統ある地区運動会を邪魔する不届きものがいるとか。大方盛り上がる体育系側とやる気のない文科系側の軋轢がというのがエドの見解である。何にせよ参加すればわかるということで僕が走ってKKが見張っているという予定だったのだが。
「綱引きで年代別リレーに出るはずだった四十代の人が怪我したんだからさ」
「ピンポイントすぎるだろ……」
何かの意図を感じないでもないけど、現状霊視しても何も出てこないので進行を補助する他ない。
900ぶつくさと文句をこぼし続けるKKを宥めながら赤く平たい紐を首に回し緩く結ぶ。
「ネクタイじゃねえんだぞ」
「いいからいいから、仕事だと思ってさ」
実際に仕事である。どうもこの伝統ある地区運動会を邪魔する不届きものがいるとか。大方盛り上がる体育系側とやる気のない文科系側の軋轢がというのがエドの見解である。何にせよ参加すればわかるということで僕が走ってKKが見張っているという予定だったのだが。
「綱引きで年代別リレーに出るはずだった四十代の人が怪我したんだからさ」
「ピンポイントすぎるだろ……」
何かの意図を感じないでもないけど、現状霊視しても何も出てこないので進行を補助する他ない。
ことざき
DOODLEキスしたかったK暁の話。とても暗い。5/23がキスの日だと知って書こうとしたら斜め方向に暴投しました。
診断メーカー『あなたに書いて欲しい物語(ID:801664)』の【「ほら、目を閉じて」で始まり、「私も同じ気持ちだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)でお願いします。】をお借りしています。 2235
subaccount3210
DONELenLenさんの素敵ツイート(https://x.com/purunrun555/status/1791294676378714321)から生まれてしまったけあき。暁人君が若干?暴走気味です。好きだ、と言われた。本当は言うつもりはなかったがと前置きされて。
「オマエの今時信じられねえくらい真っ直ぐで純粋で、他人……いや人だけじゃねえ動物や妖怪でさえも手を差し伸べられる優しさにオレは救われた。オレだけじゃねえことはわかってる。それでもオレは、オマエの特別でいたいんだ」
その言葉は本当に嬉しかった。僕も同じ気持ち、KKの特別でいたかったから。
「本気で大事にするから……オマエの人生をオレにくれ」
だから小さな違和感には気付かないフリをした。
それから僕らは恋人同士になって、でもそんなに僕たちの関係は変わらなかった。
元々男同士で相棒かつ師弟という関係で二心同体だったせいで麻里や凛子さんに何度も「距離が近い」と注意されてはどこがだろうと顔を見合わせたものだった。それに表の職業は刑事と新入社員で、裏の副業が祓い屋なんて未だにファンタジーかつ過酷な世界にいるせいで二人きりで夜の街を駆け回り朝まで過ごすことは珍しくなかった。
3719「オマエの今時信じられねえくらい真っ直ぐで純粋で、他人……いや人だけじゃねえ動物や妖怪でさえも手を差し伸べられる優しさにオレは救われた。オレだけじゃねえことはわかってる。それでもオレは、オマエの特別でいたいんだ」
その言葉は本当に嬉しかった。僕も同じ気持ち、KKの特別でいたかったから。
「本気で大事にするから……オマエの人生をオレにくれ」
だから小さな違和感には気付かないフリをした。
それから僕らは恋人同士になって、でもそんなに僕たちの関係は変わらなかった。
元々男同士で相棒かつ師弟という関係で二心同体だったせいで麻里や凛子さんに何度も「距離が近い」と注意されてはどこがだろうと顔を見合わせたものだった。それに表の職業は刑事と新入社員で、裏の副業が祓い屋なんて未だにファンタジーかつ過酷な世界にいるせいで二人きりで夜の街を駆け回り朝まで過ごすことは珍しくなかった。
ことざき
DONEおやつを食べるK暁の話。おやつの時間「あのさ、ちょっとつき合ってほしいんだけど」
KKが暁人からそう頼まれたのは、カーテンの隙間から射しこむ陽光が赤みを帯びはじめた、午後四時過ぎのことだった。
「追加の買い出しか?」
こんな時間帯に頼まれることなど、それくらいしか思い浮かばない。KKは読みかけの文庫本を閉じると、ローテーブルの上に置いた。ソファから立ちあがり、ボディバッグを取りに行こうと寝室へ向かいかけたところで、近づいてきた暁人に制された。
「一緒におやつを食べてほしいんだ」
KKは眉をあげた。
「食いに行くんじゃなくてか?」
「うん」
ソファのかたわらに立つ暁人の笑顔はどこか遠慮がちに見えた。
「そりゃ、別にかまわねえが……」
「良かった!」
5591KKが暁人からそう頼まれたのは、カーテンの隙間から射しこむ陽光が赤みを帯びはじめた、午後四時過ぎのことだった。
「追加の買い出しか?」
こんな時間帯に頼まれることなど、それくらいしか思い浮かばない。KKは読みかけの文庫本を閉じると、ローテーブルの上に置いた。ソファから立ちあがり、ボディバッグを取りに行こうと寝室へ向かいかけたところで、近づいてきた暁人に制された。
「一緒におやつを食べてほしいんだ」
KKは眉をあげた。
「食いに行くんじゃなくてか?」
「うん」
ソファのかたわらに立つ暁人の笑顔はどこか遠慮がちに見えた。
「そりゃ、別にかまわねえが……」
「良かった!」
HINAKO
PROGRESS次作りたい本→斑がヤンデレの話しばらく明るいえろでジャブ打ってましたがネク斑(ネクラな斑)をそろそろ描きたいなぁ、と
ネガもポジも両方肯定したい
◆追記:以前の本をお手に取って下さった方々、ありがとうございました!
本ができた暁にはオフイベに出るか、また通販のみになるかは考え中です 3
GegyoGWT
DONE本編後の暁人くんと祟り屋さんの妄想3つ目です。祟り屋さんとちょっと距離が近かったりします。無題3 霧の海に、巨大なビルが一棟聳えている。
窓には灯りが点っているが、人の気配はない。命ある人々が住まう現実世界から、適当に切り取られて、そこに漂着したようなうら寂しいオフィスビル。
その周囲に、ゆっくりと浮遊する小さな影が群れを成している。
『あれを始末してもらいたい』
番傘の上で祟り屋が言う。
その隣に浮かんだ番傘の上で、暁人はうんざりして溜息した。
あの霧の夜、今は亡き相棒から借りていた様々な霊能力。あの夜から実に十年が過ぎた今になって、再び能力を獲得した暁人は、やはりと言うべきか除霊やマレビト退治といった活動をするようになった。
決して積極的にではない。そのつもりはない。暁人も今やごくごく普通の会社勤めで、真っ当に生きているつもりなのだ。サラリーマンと霊能力者もどきの二足の草鞋など、たやすく履けるわけがない。
5722窓には灯りが点っているが、人の気配はない。命ある人々が住まう現実世界から、適当に切り取られて、そこに漂着したようなうら寂しいオフィスビル。
その周囲に、ゆっくりと浮遊する小さな影が群れを成している。
『あれを始末してもらいたい』
番傘の上で祟り屋が言う。
その隣に浮かんだ番傘の上で、暁人はうんざりして溜息した。
あの霧の夜、今は亡き相棒から借りていた様々な霊能力。あの夜から実に十年が過ぎた今になって、再び能力を獲得した暁人は、やはりと言うべきか除霊やマレビト退治といった活動をするようになった。
決して積極的にではない。そのつもりはない。暁人も今やごくごく普通の会社勤めで、真っ当に生きているつもりなのだ。サラリーマンと霊能力者もどきの二足の草鞋など、たやすく履けるわけがない。
GegyoGWT
MOURNINGぼんやりと思い浮かんだネタです。マレビトのコンセプトとデザインが好きで、ミニミニのマレビトを育成できたらなと思った話です。黒土女のデザインが一番好きなので黒土女が真っ先に浮かびましたが、人によって育つマレビトが違うやつです。
※全員生存if時空で、暁人くんとKKがバディをしている設定です。
※このお話にカプ要素はありませんがK暁を生み出す人間が書いております。
マレビト育成キット 女の喘鳴が聞こえる。
肺に水が溜まっているような、酷い音だ。
がらんとしたワンルームは明るかった。住む人間のいない部屋は、何も無い展示ケースのように淡々として静謐だ。だがそこに、濡れそぼった女の放つ濁った喘ぎ声だけが繰り返されている。
暁人はためらいつつ、リビングに足を踏み入れた。すぐ後ろでKKも息を潜めている。
カーテンの無い掃き出し窓から、昼下がりの柔らかい光が部屋を照らしている。
女は壁の隅にいた。住人が残した忘れ物のように、脈絡もなく倒れ伏していた。
暁人が近づくと、女はゆっくりと顔を上げた。
ごぼごぼと篭ったような水音がする。こんなにも明るい部屋にいながら、濁った深い水底を思わせる。重く、暗く、茫洋とした水。それはこの女の、胸腔にあたる所から聞こえる音だ。
4419肺に水が溜まっているような、酷い音だ。
がらんとしたワンルームは明るかった。住む人間のいない部屋は、何も無い展示ケースのように淡々として静謐だ。だがそこに、濡れそぼった女の放つ濁った喘ぎ声だけが繰り返されている。
暁人はためらいつつ、リビングに足を踏み入れた。すぐ後ろでKKも息を潜めている。
カーテンの無い掃き出し窓から、昼下がりの柔らかい光が部屋を照らしている。
女は壁の隅にいた。住人が残した忘れ物のように、脈絡もなく倒れ伏していた。
暁人が近づくと、女はゆっくりと顔を上げた。
ごぼごぼと篭ったような水音がする。こんなにも明るい部屋にいながら、濁った深い水底を思わせる。重く、暗く、茫洋とした水。それはこの女の、胸腔にあたる所から聞こえる音だ。