汐
狭山くん
TRAINING2022-08-28/ハッピーエバーアフターな空閑汐♂そのいち。空閑汐♂デイリー【Memories】28 硬い二段ベッドが置かれた寮で出逢ってから十四年、互いを一度手放してから七年、約束の場所でもう一度出逢い――思い返すと身悶えしてしまうようなみっともないプロポーズの言葉を叫んでから、一年。今日も汐見の左手には彼自身が空閑へと贈った指輪と対になるそれが光っている。
互いに休暇を取っていたが、緊急の呼び出しだと苦々しげに呻いた空閑は背中に哀愁を漂わせて部屋を出て――一人残された汐見はぐずぐずとベッドの中で時間をやり過ごしていた。とてもじゃはないけれど動ける状態に無かったので。
互いに休みが重なった前夜は、三十に入った今でも大いに盛り上がる。互いに不規則な勤務体系で働いているおかげで、休みが重なる日が少なく――互いに溜まりに溜まった情欲をぶつけ合っていれば気付けば朝になっていたりもする。
1269互いに休暇を取っていたが、緊急の呼び出しだと苦々しげに呻いた空閑は背中に哀愁を漂わせて部屋を出て――一人残された汐見はぐずぐずとベッドの中で時間をやり過ごしていた。とてもじゃはないけれど動ける状態に無かったので。
互いに休みが重なった前夜は、三十に入った今でも大いに盛り上がる。互いに不規則な勤務体系で働いているおかげで、休みが重なる日が少なく――互いに溜まりに溜まった情欲をぶつけ合っていれば気付けば朝になっていたりもする。
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TRAINING2022-08-27/予告通りのハッピーハッピー!ドタバタしてるくらいが空閑汐♂って感じがしますね。空閑汐♂デイリー【Memories】27 震える声で呼ばれた名前に、それだけで胸が熱くなった。やっぱり、この男の隣に居たいと強く感じたのだ。
「それが! 何で! こうなるんだ!?」
思わず叫びながら走る汐見は床を蹴る。まさか到着直後に会えるとは思わなかったが、顔を合わせた直後に逃げ出されるとも思わなかった。昔から瞬発力は汐見の方が勝っているし、あのよく分からない刃物男を追って走ってきたのであれば流石の持久力も大分削られているだろう。
「止まれ、ヒロミ! っわ!?」
床を蹴り上げ――地球とは異なる六分の一という重力で想定以上に飛んだ体をそのまま空閑に投げ出した汐見は、空閑の腰へと両腕を巻き付け二人揃って床へと倒れ込む。
「すまん、変な所打ってないか!? いや待て、お前が逃げるのが悪いんだろうが!」
1628「それが! 何で! こうなるんだ!?」
思わず叫びながら走る汐見は床を蹴る。まさか到着直後に会えるとは思わなかったが、顔を合わせた直後に逃げ出されるとも思わなかった。昔から瞬発力は汐見の方が勝っているし、あのよく分からない刃物男を追って走ってきたのであれば流石の持久力も大分削られているだろう。
「止まれ、ヒロミ! っわ!?」
床を蹴り上げ――地球とは異なる六分の一という重力で想定以上に飛んだ体をそのまま空閑に投げ出した汐見は、空閑の腰へと両腕を巻き付け二人揃って床へと倒れ込む。
「すまん、変な所打ってないか!? いや待て、お前が逃げるのが悪いんだろうが!」
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TRAINING2022-08-25/汐見♂と吉嗣先生の話。元々本編軸でも汐見妹の澪ちゃんと吉嗣先生は結婚するのでこちらの世界線でもハッピーウエディング。吉嗣先生も色々エピソード持ってそうですがそれはまた気が向いたら頃にでも。空閑汐♂デイリー【Memories】25「お疲れさん」
「ざっす、ようやっと乗れてこっちも役得すわ」
国際航空宇宙学院日本校の第一格納庫に併設された教官室で、吉嗣から投げられる言葉に紺色のフライトスーツのジッパーを下ろしながら汐見は小さく笑う。その表情はどこか晴れ晴れとしていた。
「タロンをダシにでもしないと来ないだろ、お前」
「バレバレすか」
肩を竦めて笑った汐見に、吉嗣は大きなため息を一つ零していた。ため息ついでにポケットから煙草を取り出したのを目敏く見つけた汐見は言葉を重ねる。
「俺にも一本下さいよ」
「汐見お前も遂にヤニ中毒者の仲間入りか」
「あからさまに嬉しそうにしますね、二十八にもなればそりゃ色々ありますよ。酒も飲めるし煙草も覚えちまう」
1067「ざっす、ようやっと乗れてこっちも役得すわ」
国際航空宇宙学院日本校の第一格納庫に併設された教官室で、吉嗣から投げられる言葉に紺色のフライトスーツのジッパーを下ろしながら汐見は小さく笑う。その表情はどこか晴れ晴れとしていた。
「タロンをダシにでもしないと来ないだろ、お前」
「バレバレすか」
肩を竦めて笑った汐見に、吉嗣は大きなため息を一つ零していた。ため息ついでにポケットから煙草を取り出したのを目敏く見つけた汐見は言葉を重ねる。
「俺にも一本下さいよ」
「汐見お前も遂にヤニ中毒者の仲間入りか」
「あからさまに嬉しそうにしますね、二十八にもなればそりゃ色々ありますよ。酒も飲めるし煙草も覚えちまう」
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TRAINING2022-08-24/今回初登場なグェーリィンヌ君は本編に出てくるグェーリィンヌ君のお兄さんなんですけど、本編にも空閑汐♂にも1ミリも関係ない情報だし今後出てくるのかは知らん。フランスSF作家が名前の元ネタな兄弟になってしまった。空閑汐♂デイリー【Memories】24 温厚でお人好し。アルベール・グェーリィンヌが一期上の先輩に抱いていたのはそんな印象だった。
「アル! 手錠、手錠!」
いつもにこやかに笑みを浮かべているアジア系にしては恵まれた体格を持つ先輩は、警邏の為に並び歩いていた筈のグェーリィンヌを置き去りに走り出したと思えばいとも容易く暴漢を背負い投げ声を上げている。
「え、あ! はい!」
慌てて彼の元へと駆けたグェーリィンヌは先輩――空閑宙海へと手錠を渡す。「ありがとね」恐喝の現行犯を確保しているとは思えない程にのんびりとした声でグェーリィンヌの差し出す手錠を受け取った空閑は、先程の見事な背負い投げを決めた人間と同じ人物とは思えないような柔らかな笑みを浮かべて男の手首に手錠を掛けていた。
1778「アル! 手錠、手錠!」
いつもにこやかに笑みを浮かべているアジア系にしては恵まれた体格を持つ先輩は、警邏の為に並び歩いていた筈のグェーリィンヌを置き去りに走り出したと思えばいとも容易く暴漢を背負い投げ声を上げている。
「え、あ! はい!」
慌てて彼の元へと駆けたグェーリィンヌは先輩――空閑宙海へと手錠を渡す。「ありがとね」恐喝の現行犯を確保しているとは思えない程にのんびりとした声でグェーリィンヌの差し出す手錠を受け取った空閑は、先程の見事な背負い投げを決めた人間と同じ人物とは思えないような柔らかな笑みを浮かべて男の手首に手錠を掛けていた。
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TRAINING2022-08-23/高校時代に空閑とハーレーで走った道を1人で走る汐見♂の話。今週末にはハッピーハッピーです(予言)空閑汐♂デイリー【Memories】23 ひとり荒野をバイクで駆ける。この場所で暮らしはじめて少しした頃に買ったバイクはすっかり馴染んでしまって。汐見は休暇の殆どをこうやってバイクを走らせ過ごしていた。
同じ部隊の先輩は気のいい人間で、同期は学生時代からの仲ではある。けれど、余暇の時間まで過ごしたいとはどうしても思えなくて。大体の誘いを断り結局一人で過ごすことが多いのだ。あまりにも人付き合いが悪くて、自分でも笑ってしまう。そんな自分が平穏に過ごせているのは、ひとえに同期であるフォスターがフォローしてくれているお陰だろう。
――ヒロミに何を言われたのかは知らないが。
フォスターは保護者よろしく汐見を構い、汐見が辟易とするようなあからさまな誘いの防波堤のような位置にその身を置いていて。軍に入ってから筋肉も持久力も学生時代よりも増えたとは言え、体質的なものなのか見た目はどうしても細く軟弱に見える汐見からして見れば羨ましい事この上ない恵まれた体格を持つフォスターはこの場所でグリズリーと呼ばれていた。
1230同じ部隊の先輩は気のいい人間で、同期は学生時代からの仲ではある。けれど、余暇の時間まで過ごしたいとはどうしても思えなくて。大体の誘いを断り結局一人で過ごすことが多いのだ。あまりにも人付き合いが悪くて、自分でも笑ってしまう。そんな自分が平穏に過ごせているのは、ひとえに同期であるフォスターがフォローしてくれているお陰だろう。
――ヒロミに何を言われたのかは知らないが。
フォスターは保護者よろしく汐見を構い、汐見が辟易とするようなあからさまな誘いの防波堤のような位置にその身を置いていて。軍に入ってから筋肉も持久力も学生時代よりも増えたとは言え、体質的なものなのか見た目はどうしても細く軟弱に見える汐見からして見れば羨ましい事この上ない恵まれた体格を持つフォスターはこの場所でグリズリーと呼ばれていた。
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TRAINING2022-08-19/ヴィン汐♂事後ーーーーーーー!!!!!!!事後だからセーフだと思いたいセーフでしょ。事後のベッドでタバコを吸うのは私の癖のサビでもある。空閑汐♂デイリー【Memories】21 一人で眠れるようになった、あの頃は手にしようともしなかった煙草を覚えた。それは全部、もう一度ひとりで生きていけるようにしようとしたからだ。けれど――あの熱を喪った寒さだけは、ひとりではどうする事も出来なかった。
「ん……、アマネ……?」
「悪い、起こしたか」
出張で地球に来ていると連絡をくれたのはフェルマーだった。久々に飲もうかと、フェルマーが泊まるホテルの一室で買い込んだアルコールを開け気づいた時には泣いていた。
こんな事を言えるのは、フェルマーにだけで。空閑が隣に居ない日々があまりにも色彩に乏しくて、寒く悲しく――寂しいものだなんて吐露する事が出来る相手を、汐見はフェルマーしか知らなかったのだ。
1286「ん……、アマネ……?」
「悪い、起こしたか」
出張で地球に来ていると連絡をくれたのはフェルマーだった。久々に飲もうかと、フェルマーが泊まるホテルの一室で買い込んだアルコールを開け気づいた時には泣いていた。
こんな事を言えるのは、フェルマーにだけで。空閑が隣に居ない日々があまりにも色彩に乏しくて、寒く悲しく――寂しいものだなんて吐露する事が出来る相手を、汐見はフェルマーしか知らなかったのだ。
🌱𝚞𝚗𝚘
DONE #よその子が描きたいので資料送ってくれたら描くかもしれないお借りいたしました
賢木 聖薇ちゃん/めろさん
菱川 廻ちゃん/小鳩さん
水月 汐くん(TS)/無糖さん
緋真 ユイくん、セリくん/あすあさん、小鳩さん 4
milkyways_popo
DONE突然のネタから始まったお話です。(敬称略)Boko「夏🐯の攻め喘ぎがほしい」
汐「17歳ならイケるんじゃ?」
みるきー「むずむずっ.........」
こんな感じでした。
17夏✕教師🐯、Bokoちゃに素敵な挿絵をいただきました!
無茶言ってたのにありがとー!
滾らせてくれた汐ちゃに捧ぐ攻め喘ぎ(?)夏🐯!
それではどうぞ!
18⬆? 8
狭山くん
TRAINING2022-08-19/今日は汐見♂不在な汐見♂の話。フォスターは空閑汐♂を4年間見てその後1人になった汐見♂を3年見てるので偶に見てられないと思う事もありそう。空閑汐♂デイリー【Memories】19 軍に入って二年、五年間同じ学び舎で暮らした同期をイーグルと呼ぶのにも慣れた頃。酒場ではその男の話題で盛り上がっていた。
「アイツ、またモーション掛けられてたんだってよ」
「今度は誰だ?」
「整備のクラウディア! 俺も狙ってたのになぁ」
「お前とイーグルを比べたらイーグルに行くだろそりゃ」
先輩達の話を聞き流しながら、この酒場に居ない男の事を思い出す。大胆かつ繊細な操縦はかつてのまま、振る舞いはどこか機械的になってしまった男。空閑が居なくなったというそれだけで、彼はそれまで持っていた筈の人間味を削ぎ落としていった事をこの場所でフォスターだけが知っている。
この部隊に配属された頃にはもう、殆ど笑うこともなくなっていた汐見はしかし男女問わず周囲の人間を虜にしていた。着痩せをするタイプなのだろう、細身の長身は脱げば引き締まった筋肉を纏い、その整った相貌も歳より若く見えるものの精悍な青年らしさを湛えていて。
1145「アイツ、またモーション掛けられてたんだってよ」
「今度は誰だ?」
「整備のクラウディア! 俺も狙ってたのになぁ」
「お前とイーグルを比べたらイーグルに行くだろそりゃ」
先輩達の話を聞き流しながら、この酒場に居ない男の事を思い出す。大胆かつ繊細な操縦はかつてのまま、振る舞いはどこか機械的になってしまった男。空閑が居なくなったというそれだけで、彼はそれまで持っていた筈の人間味を削ぎ落としていった事をこの場所でフォスターだけが知っている。
この部隊に配属された頃にはもう、殆ど笑うこともなくなっていた汐見はしかし男女問わず周囲の人間を虜にしていた。着痩せをするタイプなのだろう、細身の長身は脱げば引き締まった筋肉を纏い、その整った相貌も歳より若く見えるものの精悍な青年らしさを湛えていて。
mtn_river
PAST2016/03/12 子供たち1:『これは物語ではない』
高橋塔子 帆来汐孝
2:『これは物語ではない』
荻原映呼 八月一日夏生
3:『Drive to Pluto』
田邊徳仁 秋山聖
4:『Cipher』
X 4
狭山くん
TRAINING2022-08-18/本日は空閑編!ようこそオーベルト!って言いながらもまぁ不穏。ヴィンは割と汐見♂モンペなとこあるよね。空閑汐♂デイリー【Memories】18 かつて目指したものにはなれなかった、けれどもかつて目指した場所には辿り着く事が出来た。一度は喪ったと思っていた全ては、まだ自分の中に残されていて――喪失感に打ちのめされそうになる夜に抗い、空閑は約束の場所へと降り立つ事が出来たのだ。
「ようこそ、オーベルトへ」
静かの海に位置するオーベルトの玄関口であるオーベルト宇宙港で空閑を迎え入れたのは、いち早くオーベルト勤務を拝命し既にこの地で働きはじめていたフェルマーで。整った相貌にお手本みたいな笑みを浮かべて空閑を出迎えた彼に、空閑は小さく笑みを浮かべて頷いた。
「――で、アマネの事振ったんだって?」
宇宙港から少し進んだ場所にあるノースエリアのダイニングバーで、フェルマーは不機嫌そうな表情を浮かべてビールを呷る。刺すように繰り出されたフェルマーからの問いに、空閑は困ったように笑みを浮かべながらも頷いて。
1705「ようこそ、オーベルトへ」
静かの海に位置するオーベルトの玄関口であるオーベルト宇宙港で空閑を迎え入れたのは、いち早くオーベルト勤務を拝命し既にこの地で働きはじめていたフェルマーで。整った相貌にお手本みたいな笑みを浮かべて空閑を出迎えた彼に、空閑は小さく笑みを浮かべて頷いた。
「――で、アマネの事振ったんだって?」
宇宙港から少し進んだ場所にあるノースエリアのダイニングバーで、フェルマーは不機嫌そうな表情を浮かべてビールを呷る。刺すように繰り出されたフェルマーからの問いに、空閑は困ったように笑みを浮かべながらも頷いて。
狭山くん
TRAINING2022-08-17/本日の空閑汐♂デイリーは汐見♂編。これから空閑と汐見♂のそれぞれの1年づつを上げていきます。空閑と汐見♂だと別れてダメージ強いのは汐見♂の方だよなぁ。空閑汐♂デイリー【Memories】17 荒涼とした赤い大地を見つめ、密かに嘆息する。そんな汐見の態度を横目で見ていたフォスターは困ったように笑いながらも、彼の背中を景気付けとでも言うように叩いていた。
「今日も一日、働くぞ」
「解ってるさ、今日も一日墓場で飛んでやる」
航宙士学院を主席で卒業した汐見は、フォスターと共に軍人としての道を進み始めていた。新兵教育を修了し、出された辞令は二人揃ってモハーヴェ宇宙港勤務。近くには飛行機の墓場と呼ばれる場所があるその地では、地球と軌道ステーションを結ぶスペースプレーンが飛んでいた。
在学中に各種ジェット戦闘機の飛行ライセンスを取得し、航宙徽章を持つ二人は殆どが航宙士学院卒業生で構成される部隊へと配属されたのだ。
1313「今日も一日、働くぞ」
「解ってるさ、今日も一日墓場で飛んでやる」
航宙士学院を主席で卒業した汐見は、フォスターと共に軍人としての道を進み始めていた。新兵教育を修了し、出された辞令は二人揃ってモハーヴェ宇宙港勤務。近くには飛行機の墓場と呼ばれる場所があるその地では、地球と軌道ステーションを結ぶスペースプレーンが飛んでいた。
在学中に各種ジェット戦闘機の飛行ライセンスを取得し、航宙徽章を持つ二人は殆どが航宙士学院卒業生で構成される部隊へと配属されたのだ。
狭山くん
TRAINING2022-08-16/今日の空閑汐♂デイリーは空閑の再起動編。夢を絶たれて全てを失った気分になっても、夢の為に努力したものは決して消えることはないんですよね。空閑汐♂デイリー【Memories】16 手を伸ばせば後少しで届きそうだった夢が、指先から零れていったあの日から一年が経った。傷跡こそ残ったが、後遺症と言えるような不具合もなく――医者からもう大丈夫だと言われた日に「鉄棒で大回転も出来ますか?」と訊いてみた空閑へ、医者は笑って頷くという太鼓判でもって放免されていた。
「空閑、明日の授業俺の代わりにやってもらって良いか?」
「一年の航空機概論でしたっけ? 良いですよ」
そうして空閑は、古巣でもある国際航空宇宙学院日本校の高等部へと戻り吉嗣のアシスタントとして日銭を得ているのだ。
空閑が軌道ステーションの医療センターから地球へと移る入院先に決めたのは、日本校に併設された医学部附属病院で。そこで空閑を迎えてくれたのが、吉嗣だった。
1286「空閑、明日の授業俺の代わりにやってもらって良いか?」
「一年の航空機概論でしたっけ? 良いですよ」
そうして空閑は、古巣でもある国際航空宇宙学院日本校の高等部へと戻り吉嗣のアシスタントとして日銭を得ているのだ。
空閑が軌道ステーションの医療センターから地球へと移る入院先に決めたのは、日本校に併設された医学部附属病院で。そこで空閑を迎えてくれたのが、吉嗣だった。
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TRAINING2022-08-15/今日の空閑汐♂デイリーは汐見♂の卒業話である。夢を叶えたのにどうにも気持ちが晴れない汐見♂の話。逢えない時間が愛育てる……のさ……ッ!空閑汐♂デイリー【Memories】15 渡されたのは、精巧な銀細工のブローチだった。八年半もの間、この徽章を求めてきたのは嘘ではない。手のひらの上で真新しい光を放つ細い銀の線で構成された楕円形の徽章を見つめ、今この場に居ない男の事を想う。
「ミスターシオミ、受領のサインを」
流石に重要な受領確認は未だに紙で行われるらしい。教員が差し出したバインダーとペンを受け取って、少し考えてから肩口のペン差しに入れていたボールペンを抜き出す。
「良いものを持ってるな」
「これならずっと使えると思って、高校卒業の記念に買ったんですよ」
汐見の言葉に教員は鷹揚に頷き、サラサラと書かれていくサインを見つめていた。それはかつて同じ場所を目指していた愛しい男と揃えで買った白銀色に輝くボールペンだった。
1084「ミスターシオミ、受領のサインを」
流石に重要な受領確認は未だに紙で行われるらしい。教員が差し出したバインダーとペンを受け取って、少し考えてから肩口のペン差しに入れていたボールペンを抜き出す。
「良いものを持ってるな」
「これならずっと使えると思って、高校卒業の記念に買ったんですよ」
汐見の言葉に教員は鷹揚に頷き、サラサラと書かれていくサインを見つめていた。それはかつて同じ場所を目指していた愛しい男と揃えで買った白銀色に輝くボールペンだった。
狭山くん
TRAINING2022-08-14/空閑汐♂デイリー3日ぶりの更新です!こんな感じの話が多分2週間弱続きます……2週間後には楽しい話になれば……いいよね……(決意)空閑汐♂デイリー【Memories】14「なぁ、ヒロ……じゃない、な」
テキストから顔を上げながら溢された汐見の声に、フォスターは呆れたように息を吐く。航宙士学院の五年生として軌道ステーションにある国際航空宇宙学院のサテライトキャンパスで勉学に励むフォスターは、自習室で隣に座る汐見へ掛ける言葉に迷っていた。
「なぁ汐見」
フォスターの声に視線だけを向ける汐見の瞳は冷め切っていて、その事実に苦々しい気分になる。数ヶ月前までは、その瞳には自信だとか熱だとかそういった感情があった筈なのに。視線だけでフォスターの呼びかけに反応する汐見に、少しだけ逡巡するように言葉を探しながらも空気を震わせていく。
「もう、三ヶ月経つんだ。気晴らしでもした方が、いいんじゃないだろうか」
1090テキストから顔を上げながら溢された汐見の声に、フォスターは呆れたように息を吐く。航宙士学院の五年生として軌道ステーションにある国際航空宇宙学院のサテライトキャンパスで勉学に励むフォスターは、自習室で隣に座る汐見へ掛ける言葉に迷っていた。
「なぁ汐見」
フォスターの声に視線だけを向ける汐見の瞳は冷め切っていて、その事実に苦々しい気分になる。数ヶ月前までは、その瞳には自信だとか熱だとかそういった感情があった筈なのに。視線だけでフォスターの呼びかけに反応する汐見に、少しだけ逡巡するように言葉を探しながらも空気を震わせていく。
「もう、三ヶ月経つんだ。気晴らしでもした方が、いいんじゃないだろうか」
狭山くん
TRAINING2022-08-10/空閑汐♂デイリー、5年目冒頭からして不穏。ここから2週間位はだいたいこんな感じです。空閑汐♂デイリー【Memories】10 どちらが叫んだのか、それともどちらともが叫んだのか。吠えるような男の叫び声が空気を震わせ、盾になろうとした身体は跳ね飛ばされていた。肩には衝撃が走る。
「――ッヒロミ!!」
何発かの銃声が響き、隔壁が閉じる金属音やサイレンが反響していた。その中でも、吠えるように叫ぶ男の声だけは、不思議とクリアに空閑の耳まで届く。
「ヒロミ、大丈夫だ。急所は逸れてる、大丈夫だから」
言葉の間に隙さえあれば大丈夫だと、何度も繰り返し口にしている男の声に彼の体重が掛けられていない方の腕を上げる。利き腕は無事だ。切れ長の瞳からポロリと溢れる雫が、綺麗だなんて。多分今彼に伝えたら怒られてしまうだろう。
けれど、とても綺麗だと思ったんだ。
995「――ッヒロミ!!」
何発かの銃声が響き、隔壁が閉じる金属音やサイレンが反響していた。その中でも、吠えるように叫ぶ男の声だけは、不思議とクリアに空閑の耳まで届く。
「ヒロミ、大丈夫だ。急所は逸れてる、大丈夫だから」
言葉の間に隙さえあれば大丈夫だと、何度も繰り返し口にしている男の声に彼の体重が掛けられていない方の腕を上げる。利き腕は無事だ。切れ長の瞳からポロリと溢れる雫が、綺麗だなんて。多分今彼に伝えたら怒られてしまうだろう。
けれど、とても綺麗だと思ったんだ。
狭山くん
TRAINING2022-08-09/今日のデイリーはヴィンと篠原(と高師くん)卒業おめでとう回!汐見♂と空閑は5年制なのであと1年!空閑汐♂デイリー【Memories】09 掲げられるグラスの数は四。高師だけが居ないその席でフェルマーは上機嫌だった。
「兎にも角にも、卒業おめでとう」
「ありがと! アマネとヒロミはあと一年だね」
カルアミルクをちびりと飲みながら上機嫌で頷くフェルマーを空閑は不思議そうに見つめて。
「ヴィン、高師と別の会社に行くっていうのに、寂しがらないんだね」
空閑の疑問は尤もだとフェルマーは頷いて「寂しいは寂しいし、今日来なかったのも意地っ張りだなぁって思うけど、ボクらは結局同じ場所を目指してるからね。すぐにまた逢えるでしょう?」と笑う。
高師と篠原はフェルマーが採用された企業の同業他社への入社を決めていた。それでも、同じ業界でこれからも暮らす事が分かっていれば、そこまで寂しさはない。
955「兎にも角にも、卒業おめでとう」
「ありがと! アマネとヒロミはあと一年だね」
カルアミルクをちびりと飲みながら上機嫌で頷くフェルマーを空閑は不思議そうに見つめて。
「ヴィン、高師と別の会社に行くっていうのに、寂しがらないんだね」
空閑の疑問は尤もだとフェルマーは頷いて「寂しいは寂しいし、今日来なかったのも意地っ張りだなぁって思うけど、ボクらは結局同じ場所を目指してるからね。すぐにまた逢えるでしょう?」と笑う。
高師と篠原はフェルマーが採用された企業の同業他社への入社を決めていた。それでも、同じ業界でこれからも暮らす事が分かっていれば、そこまで寂しさはない。
狭山くん
TRAINING2022-08-08/今日の空閑汐♂デイリーは空閑とフォスター。フォスターは良い奴だよな……私は君の事がだいぶ好きだよ……空閑汐♂デイリー【Memories】08 エンジンが空気を震わせていた。バリバリと空気を引き裂くエンジン音を轟かせ、その機体は空へと舞い上がる。
「お、今日もやってるな」
「やってるねぇ」
教室で座学の復習をしていた空閑とフォスターは窓の外へと視線を向ける。雲を描き空を自在に舞うのは汐見が操縦するジェット練習機で。眩しげに目を細めて見つめる空閑に、フォスターは呆れたようにため息をひとつ零していた。
「それにしてもあいつ、課外で取れるライセンス全部取り終わってるのにまだ乗ってるのか」
五年目の大気圏外実地訓練に進む為に必要なライセンスは授業中の訓練で取れるようなカリキュラムを組んであり、希望者の中から実技成績順に選抜される課外訓練ではその他にもこの場所で取れるライセンスの取得が出来るシステムで。一年次から成績上位をキープし続けている汐見はその課外訓練の全てに参加していたのだ。
1230「お、今日もやってるな」
「やってるねぇ」
教室で座学の復習をしていた空閑とフォスターは窓の外へと視線を向ける。雲を描き空を自在に舞うのは汐見が操縦するジェット練習機で。眩しげに目を細めて見つめる空閑に、フォスターは呆れたようにため息をひとつ零していた。
「それにしてもあいつ、課外で取れるライセンス全部取り終わってるのにまだ乗ってるのか」
五年目の大気圏外実地訓練に進む為に必要なライセンスは授業中の訓練で取れるようなカリキュラムを組んであり、希望者の中から実技成績順に選抜される課外訓練ではその他にもこの場所で取れるライセンスの取得が出来るシステムで。一年次から成績上位をキープし続けている汐見はその課外訓練の全てに参加していたのだ。
狭山くん
TRAINING2022-08-06/空閑汐♂とフォスターで酒を飲む話。多分他の同期も近くでワイワイやってるんだろうけども。空閑汐♂デイリー【Memories】06「そういえば、お前らっていつから付き合ってんだ?」
「今更それ聞くのか」
すっかり常連になってしまった敷地内で営業をしているダイニングバーで、そう口火を切ったのはフォスターであった。生真面目な性質がどこか高師を思わせる――しかし意外とウィットに富んだところもあるフォスターの言葉に、汐見は呆れたような声色で首を傾げていた。
そんな汐見の隣でジンジャーエールを喉に流していた――同期達からビールを奪われ禁酒を発令されてしまった空閑は「高校の頃からだよ、二年の時だっけ?」と口にする。
「じゃぁ、もう五年の付き合いになるのか」
指折り数えて頷くフォスターに「そもそもヒロミとは一年の時から寮も同室だし、ここ入学するまで半年インターバルあったからな。実質七年くらい一緒にいるぞ」と汐見は注釈のように言葉を紡いだ。
1597「今更それ聞くのか」
すっかり常連になってしまった敷地内で営業をしているダイニングバーで、そう口火を切ったのはフォスターであった。生真面目な性質がどこか高師を思わせる――しかし意外とウィットに富んだところもあるフォスターの言葉に、汐見は呆れたような声色で首を傾げていた。
そんな汐見の隣でジンジャーエールを喉に流していた――同期達からビールを奪われ禁酒を発令されてしまった空閑は「高校の頃からだよ、二年の時だっけ?」と口にする。
「じゃぁ、もう五年の付き合いになるのか」
指折り数えて頷くフォスターに「そもそもヒロミとは一年の時から寮も同室だし、ここ入学するまで半年インターバルあったからな。実質七年くらい一緒にいるぞ」と汐見は注釈のように言葉を紡いだ。
狭山くん
TRAINING2022-08-03/空閑汐♂デイリー8月分3本目!!学院2年目の空閑汐♂、以前書いたハッピーエンド空閑汐♂+シェルツちゃんネタを入れとかねばならぬと思った。
空閑汐♂デイリー【Memories】03「アマネ! この間女の子に熱烈な告白されたんだって?」
久々にご飯でも、と顔を合わせた瞬間に楽しそうにそう口にするのはフェルマーで。そんなフェルマーの第一声に汐見は肩を竦める。
「よく知ってるな、女の子って言っても本当に小さな子供だったからな。すぐに忘れるだろ」
「あれは本気の目だったよ、俺あの後ヴィンに泣きついたもん」
汐見の肩口から不満げに声を上げるのは空閑で。ズシリと体重を掛けられた汐見は、その重量には文句を言わず「出所はお前かよ」と呆れたように深いため息を一つ零した。
「空閑は相変わらずだな、クラスでもこんな感じなの?」
「入学したての頃にヒロミが牽制しまくったせいで、同期達から生暖かく見守られるようになった」
1079久々にご飯でも、と顔を合わせた瞬間に楽しそうにそう口にするのはフェルマーで。そんなフェルマーの第一声に汐見は肩を竦める。
「よく知ってるな、女の子って言っても本当に小さな子供だったからな。すぐに忘れるだろ」
「あれは本気の目だったよ、俺あの後ヴィンに泣きついたもん」
汐見の肩口から不満げに声を上げるのは空閑で。ズシリと体重を掛けられた汐見は、その重量には文句を言わず「出所はお前かよ」と呆れたように深いため息を一つ零した。
「空閑は相変わらずだな、クラスでもこんな感じなの?」
「入学したての頃にヒロミが牽制しまくったせいで、同期達から生暖かく見守られるようになった」
狭山くん
TRAINING2022-08-02/今日の空閑汐♂も和気あいあい。多分今日出てる4人が学院内メインでつるんでいくんだと思います(感想文)空閑汐♂デイリー【Memories】02 冬入学と呼ばれる秋口から始められた授業も、ようやく一年目の折り返しと共に春が訪れる。二十人しか居ない同期達の中にも連帯感が生まれ始めた頃、学生達の端末に配信された順位表に声を上げたのはリュカ・シャルパンティエで。
「うわ、シオお前また実技一位かよ」
げぇ、というわざとらしい声と共に投げられた言葉に「上位にならないと課外の飛行訓練参加できないだろ」と汐見は眉を寄せる。
「課外飛行したいってだけで上位掻っ攫ってくのヤバいだろ」
「アマネだからねぇ」
汐見とシャルパンティエのやりとりにのんびりと口を挟むのは空閑、そんな空閑に続くようにフォスターも頷いた。
「大胆かつ繊細な操縦はいつ見ても惚れ惚れするぞ、そろそろジェット練習機に移行するんじゃないか? 教官が扱き甲斐があると言っていたな」
938「うわ、シオお前また実技一位かよ」
げぇ、というわざとらしい声と共に投げられた言葉に「上位にならないと課外の飛行訓練参加できないだろ」と汐見は眉を寄せる。
「課外飛行したいってだけで上位掻っ攫ってくのヤバいだろ」
「アマネだからねぇ」
汐見とシャルパンティエのやりとりにのんびりと口を挟むのは空閑、そんな空閑に続くようにフォスターも頷いた。
「大胆かつ繊細な操縦はいつ見ても惚れ惚れするぞ、そろそろジェット練習機に移行するんじゃないか? 教官が扱き甲斐があると言っていたな」
狭山くん
TRAINING2022-08-01/空閑汐♂デイリーも3ヶ月目に突入!ここからは怒涛のハッピーエンドまで駆け足です。ハッピーエンドになる筈なんだ。空閑汐♂デイリー【Memories】01 視界に現れたスラリとした細い体躯を持つ青年に、エリアス・フォスターは眉を寄せる。線が細いアジア人と思しき青年は、彼よりも体格の良い青年と連れ立ってこの場所にやってきた。
航宙士学院の入学生に指定されたこの教室に居るという事は、厳しい選抜を潜り抜けたフォスターの同期である筈だ。しかしフォスターから見た細身の青年の姿は、とてもではないがストレートで入学していたフォスターと同い年かそれよりも年上だとは思えなかった。
「なぁ君……たち? 高等部と間違えてないか?」
隣接する本校に設置された高等部への留学生が迷ってしまったのだろうか、そして彼らは英語を聞き取れるのだろうかと思いながらも恐る恐る声を掛けたフォスターに細身の青年は呆れたように眉を寄せ、その隣の青年は面白そうにカラカラと笑う。
1320航宙士学院の入学生に指定されたこの教室に居るという事は、厳しい選抜を潜り抜けたフォスターの同期である筈だ。しかしフォスターから見た細身の青年の姿は、とてもではないがストレートで入学していたフォスターと同い年かそれよりも年上だとは思えなかった。
「なぁ君……たち? 高等部と間違えてないか?」
隣接する本校に設置された高等部への留学生が迷ってしまったのだろうか、そして彼らは英語を聞き取れるのだろうかと思いながらも恐る恐る声を掛けたフォスターに細身の青年は呆れたように眉を寄せ、その隣の青年は面白そうにカラカラと笑う。
狭山くん
TRAINING2022-07-31/空閑汐♂夏祭りは最終日!明日からは空閑汐♂デイリーは大学から40代までの空閑汐♂切り抜きダイジェストです!8月のデイリーもよろしくお願いします〜⸜(๑'ᵕ'๑)⸝文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day31 年に数度あるかどうかといった混雑に眉を寄せる汐見に、空閑は困ったように笑いながら「校舎からも見れるけど戻る?」と問いかける。
「良い、折角良い場所取れたんだから此処で見る」
「そ? まぁ、人混みに押し合いへし合いして見れずに帰るってのも本末転倒か」
「だろ?」
彼らが三年間と数ヶ月を過ごした学び舎に隣接する北部国際宇宙港。その屋上に作られた展望デッキのの柵にもたれながら、汐見は辟易とした表情を浮かべそんな彼を見つめる空閑は苦笑を隠さない。
この宇宙港で年に一度行われる夏祭り、一年の頃に一度来てその混雑っぷりにもみくちゃにされてから二年目と三年目は足を向けてはいなかった。
空閑はどちらでも良かったのだが、汐見が人混みを厭ったのだ。汐見が行かないのであれば、空閑も一人で行こうとは思えないと毎年果敢に宇宙港へと足を向けるフェルマー達を寮のロビーで送り出していた。
1115「良い、折角良い場所取れたんだから此処で見る」
「そ? まぁ、人混みに押し合いへし合いして見れずに帰るってのも本末転倒か」
「だろ?」
彼らが三年間と数ヶ月を過ごした学び舎に隣接する北部国際宇宙港。その屋上に作られた展望デッキのの柵にもたれながら、汐見は辟易とした表情を浮かべそんな彼を見つめる空閑は苦笑を隠さない。
この宇宙港で年に一度行われる夏祭り、一年の頃に一度来てその混雑っぷりにもみくちゃにされてから二年目と三年目は足を向けてはいなかった。
空閑はどちらでも良かったのだが、汐見が人混みを厭ったのだ。汐見が行かないのであれば、空閑も一人で行こうとは思えないと毎年果敢に宇宙港へと足を向けるフェルマー達を寮のロビーで送り出していた。
狭山くん
TRAINING2022-07-30/夏の空閑汐♂祭りもあと2日となりました!そろそろ日本校ともお別れの時期ですね。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day30 掲示板に貼り出された知らせをまじまじと見つめていた汐見は、隣に立つ空閑へと視線を向ける。
「どうする」
「どうせならヴィン達と合わせたいよねぇ」
空閑の答えに頷いて、再び掲示板へと視線を向けた汐見は貼り出された用紙に指を滑らせた。そこに書かれていたのは、ドイツ本校の新入生受け入れ日程と直行便のスケジュールで。
「新学期は十月からでも、早めに行って生活に慣れておきたいよな」
「あと言葉ね、俺もアマネも英語は行けるけどドイツ語は微妙だし」
「ちゃんと学内に希望者向けの語学スクールあるし、それに向けて行く感じか」
手厚いな。感心したように笑う汐見に空閑も口元に弧を描き頷いて。そんな二人に明るく声を投げたのはフェルマーだった。
915「どうする」
「どうせならヴィン達と合わせたいよねぇ」
空閑の答えに頷いて、再び掲示板へと視線を向けた汐見は貼り出された用紙に指を滑らせた。そこに書かれていたのは、ドイツ本校の新入生受け入れ日程と直行便のスケジュールで。
「新学期は十月からでも、早めに行って生活に慣れておきたいよな」
「あと言葉ね、俺もアマネも英語は行けるけどドイツ語は微妙だし」
「ちゃんと学内に希望者向けの語学スクールあるし、それに向けて行く感じか」
手厚いな。感心したように笑う汐見に空閑も口元に弧を描き頷いて。そんな二人に明るく声を投げたのはフェルマーだった。
狭山くん
TRAINING2022-07-29/夏の空閑汐♂祭りもあと3日になりました!わぁん!揃えるというかお揃いというか揃えたという感じ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day29 汐見の指先でくるりと回された白銀に声を上げたのはフェルマーだった。
「ねぇねぇ、それってさ。ヒロミとお揃い?」
くるくると回る白銀に輝くボールペンを指の中に納め、汐見は笑う。
「流石ヴィン、目敏いな」
旧式の練習機が収められた第三格納庫、その場に居るのはフェルマーと汐見だけで。日によって空閑や篠原、高師も足を踏み入れ今は飛び立つ事すら叶わない練習機の手入れをしている彼らは今日、それぞれに頼まれた仕事によって散り散りになっている。「そろそろ渡航するってのに、人遣い荒いよね」とは空閑の談だ。
フェルマーによる乱雑な文字に補足するように流麗な汐見の文字が書き足されたチェックシートをペン先でこつりと叩きながら「ヒロミの誕生日プレゼントに買ったんだけどな。俺も欲しかったから同じやつもう一本一緒に買ったんだ」
1079「ねぇねぇ、それってさ。ヒロミとお揃い?」
くるくると回る白銀に輝くボールペンを指の中に納め、汐見は笑う。
「流石ヴィン、目敏いな」
旧式の練習機が収められた第三格納庫、その場に居るのはフェルマーと汐見だけで。日によって空閑や篠原、高師も足を踏み入れ今は飛び立つ事すら叶わない練習機の手入れをしている彼らは今日、それぞれに頼まれた仕事によって散り散りになっている。「そろそろ渡航するってのに、人遣い荒いよね」とは空閑の談だ。
フェルマーによる乱雑な文字に補足するように流麗な汐見の文字が書き足されたチェックシートをペン先でこつりと叩きながら「ヒロミの誕生日プレゼントに買ったんだけどな。俺も欲しかったから同じやつもう一本一緒に買ったんだ」
狭山くん
TRAINING2022-07-28/夏の空閑汐♂祭りもそろそろ終盤!雪どけサイダーは普通に美味いです。何なら炭酸苦手な狭山くんが唯一気に入ってるサイダーでもある。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day28 冷え切ったガラス瓶には水滴が流れ、アルミ製のスクリューを回せば金属が離れるパキリという音と共に炭酸が空気へと溶ける爽やかな音が小さく響いた。
「雪どけサイダー?」
寮から職員宿舎に居を移してからは、広い部屋を充てがわれた空閑と汐見が暮らす部屋に集まることが多くなっていた。リビングとして使っている部屋でダイニングテーブルを囲みながら瓶を手にしたまま不思議そうに首を傾げた汐見に、篠原が頷く。「あぁ。俺この間ちょっと帰省したろ、その土産」と重ねられた篠原の言葉にふぅん、と汐見は頷いて。
「栂池って言ったら長野だよね。浩介って長野出身だったんだ?」
「お、よく知ってんな空閑。北アルプスのお膝元、ここに負けず劣らずの田舎だよ。しかも特別豪雪地帯」
1645「雪どけサイダー?」
寮から職員宿舎に居を移してからは、広い部屋を充てがわれた空閑と汐見が暮らす部屋に集まることが多くなっていた。リビングとして使っている部屋でダイニングテーブルを囲みながら瓶を手にしたまま不思議そうに首を傾げた汐見に、篠原が頷く。「あぁ。俺この間ちょっと帰省したろ、その土産」と重ねられた篠原の言葉にふぅん、と汐見は頷いて。
「栂池って言ったら長野だよね。浩介って長野出身だったんだ?」
「お、よく知ってんな空閑。北アルプスのお膝元、ここに負けず劣らずの田舎だよ。しかも特別豪雪地帯」
狭山くん
TRAINING2022-07-27/空閑汐♂夏祭りももう27日目ですって!水鉄砲でわいわいするハイティーンとか青春真っ盛りって感じですよね。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day27 赤い色水が真っ白なシャツを染める。赤色の飛沫模様を付けられた男が眉を寄せ銃口を相手へと向け――飛び出した青色の色水は飛び退いた男にかかる事なく、コンクリートを染めていった。
「くっそ!」
悔しげに声を漏らした篠原に、狙われた汐見はカラカラと楽しそうに笑う。互いの手に握られていたのは色水を入れた水鉄砲で、高校時代に使っていたジャージと体操着に身を包んだ五人の男たちは寮の中庭で水遊びを繰り広げていた。
審判は高師、空閑と篠原のペアと汐見とフェルマーのペアに別れたチーム戦。この組み分けはひとえに空閑と汐見が組めば篠原達が瞬殺されるだけ、といった予感によって決められた。
「アマネ最高!」
チームメイトとなったフェルマーの賞賛に得意げな笑みを浮かべて再び敵側へと水鉄砲の銃口を向けた汐見は、二発目の色水を篠原へと放つ。それにたたらを踏みながらもやっとの事で避けた篠原は、フェルマーへと青色のペイントを施した。
1547「くっそ!」
悔しげに声を漏らした篠原に、狙われた汐見はカラカラと楽しそうに笑う。互いの手に握られていたのは色水を入れた水鉄砲で、高校時代に使っていたジャージと体操着に身を包んだ五人の男たちは寮の中庭で水遊びを繰り広げていた。
審判は高師、空閑と篠原のペアと汐見とフェルマーのペアに別れたチーム戦。この組み分けはひとえに空閑と汐見が組めば篠原達が瞬殺されるだけ、といった予感によって決められた。
「アマネ最高!」
チームメイトとなったフェルマーの賞賛に得意げな笑みを浮かべて再び敵側へと水鉄砲の銃口を向けた汐見は、二発目の色水を篠原へと放つ。それにたたらを踏みながらもやっとの事で避けた篠原は、フェルマーへと青色のペイントを施した。
狭山くん
TRAINING2022-07-26/空閑汐♂の夏26日目!T-38格好いいよね……っていう私情しか入ってない話。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day26 眼前に現れたのは、白く艶やかな塗装が施された古いジェット機だった。外見だけは美しいその機体は、空を飛ぶ事ができない。尾翼には、アメリカ航空宇宙局のロゴがしっかりと描かれていた。
「綺麗……」
ほう、と感嘆のため息と共に呟くのはフェルマーで。その言葉に吉嗣は楽しげに「だろ?」と笑う。
「この学校が開校されたのと同時に寄贈されてな。宇宙飛行士も使ってたやつだぞ」
「ヴィンを連れて来たって事は、飛ばせるようにしたいって話すか」
「話が早くて助かる」
汐見の問いに大きく頷いた吉嗣に、フェルマーは小さく笑う。
「ボク、ロケットエンジンが専門なんですけど?」
「お前なら航空機のエンジンも頭に入ってるだろ」
艶やかな機体を撫でながら呆れたように笑うフェルマーへ、吉嗣はカラカラと笑いながら言葉を返して。
1087「綺麗……」
ほう、と感嘆のため息と共に呟くのはフェルマーで。その言葉に吉嗣は楽しげに「だろ?」と笑う。
「この学校が開校されたのと同時に寄贈されてな。宇宙飛行士も使ってたやつだぞ」
「ヴィンを連れて来たって事は、飛ばせるようにしたいって話すか」
「話が早くて助かる」
汐見の問いに大きく頷いた吉嗣に、フェルマーは小さく笑う。
「ボク、ロケットエンジンが専門なんですけど?」
「お前なら航空機のエンジンも頭に入ってるだろ」
艶やかな機体を撫でながら呆れたように笑うフェルマーへ、吉嗣はカラカラと笑いながら言葉を返して。
狭山くん
TRAINING2022-07-25/空閑汐♂の夏も25日目!狭山くんは小学生の頃に行った天文台で聞いた光が人によって見え方が違うって話を20年以上引きずって生きてます。エモエモのエモじゃん……って思うですよね。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day25 夜の滑走路は誘導灯が灯され、そこを目指してスペースプレーンが優雅に降り立っていく。全ての光が消えれば闇の中に沈むその場所は、煌々としたライトによって幻想的な光景が作り出されていた。
太陽の熱が落ち着いて、少し冷たい風が肌を撫でるような時刻。それでも昼間の暑さに辟易としていた汐見にとっては心地よい時間で。彼の隣に立つ空閑は薄手の長袖シャツを羽織っていたが、汐見は半袖のティーシャツのままだった。
「寒くないの?」
「これで丁度いいくらいだぞ。お前が寒がりなんだろ」
この場所で迎える夏も三回目になると言うのに、空閑は相変わらずだと汐見は笑う。よく冬を越せてたな、という感想と共に。
「アマネは暑がりだよね、昼間部屋にいる時パンイチなのはやめてほしい」
1099太陽の熱が落ち着いて、少し冷たい風が肌を撫でるような時刻。それでも昼間の暑さに辟易としていた汐見にとっては心地よい時間で。彼の隣に立つ空閑は薄手の長袖シャツを羽織っていたが、汐見は半袖のティーシャツのままだった。
「寒くないの?」
「これで丁度いいくらいだぞ。お前が寒がりなんだろ」
この場所で迎える夏も三回目になると言うのに、空閑は相変わらずだと汐見は笑う。よく冬を越せてたな、という感想と共に。
「アマネは暑がりだよね、昼間部屋にいる時パンイチなのはやめてほしい」
狭山くん
TRAINING2022-07-24/空閑汐♂夏祭りホラー回(???)汐見♂が叫ぶのって多分よっぽどの事が起きた時か怒ってるかベッドの中だけですよ……それはそれとして私はファースト・マンが割と好きです。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day24 照明を落とした部屋に設置されたスクリーンには映像が流れる。そして、部屋中に轟くような男の悲鳴が響いた。
「無駄な腹筋を使うな!」
「だって……!」
大声を放った男――空閑の頭を叩いた汐見は苛立たしげな声を上げる。そんな汐見の言葉に言い訳するように情けない声を出す空閑は汐見の腕にしがみ付いていて。
「ていうか、ヒロミってホラーダメだったんだ?」
「みたいだな」
「映画って言うからアクション系とかかと思ったのに……」
カラカラと笑うフェルマーの言葉に汐見が頷き空閑は項垂れる。汐見の腕にがっしりと巻き付けられた空閑の腕はギチリと力を増し、汐見は眉を寄せたがそのままにさせていた。
寮のシアタールームが借りれたから映画を見ようと言い出したのはフェルマーの誘いに乗ったのはいつもの顔ぶれで、シアタールームで機械を操作しながら「やっぱり夏にはジャパニーズホラーだよね!」と鼻歌混じりに口に出していたのに空閑が肩を震わせていたのは篠原も知っていた。しかしこれ程とは。
1180「無駄な腹筋を使うな!」
「だって……!」
大声を放った男――空閑の頭を叩いた汐見は苛立たしげな声を上げる。そんな汐見の言葉に言い訳するように情けない声を出す空閑は汐見の腕にしがみ付いていて。
「ていうか、ヒロミってホラーダメだったんだ?」
「みたいだな」
「映画って言うからアクション系とかかと思ったのに……」
カラカラと笑うフェルマーの言葉に汐見が頷き空閑は項垂れる。汐見の腕にがっしりと巻き付けられた空閑の腕はギチリと力を増し、汐見は眉を寄せたがそのままにさせていた。
寮のシアタールームが借りれたから映画を見ようと言い出したのはフェルマーの誘いに乗ったのはいつもの顔ぶれで、シアタールームで機械を操作しながら「やっぱり夏にはジャパニーズホラーだよね!」と鼻歌混じりに口に出していたのに空閑が肩を震わせていたのは篠原も知っていた。しかしこれ程とは。
狭山くん
TRAINING2022-07-23/空閑汐♂夏祭り23日目!空港に隣接するひまわり畑は実在するんですけど、私が行きたい。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day23「お、来た!」
「圧巻だな、三時間半かけた甲斐がある」
定刻通りに離陸する旅客機のランディングが迫る。三脚で固定したカメラのシャッターを幾度も切り続ける空閑を見ながら、汐見もコンパクトカメラでパシャリと一度シャッターを切った。頭上をボーイングが飛び去っていく。
ひまわり畑の向こうに離着陸するボーイングという、他ではあまり見られない光景を見に行こうと空閑に誘われるまま朝早くからバイクを走らせて三時間半。飛行機は勿論好きだが、汐見が暮らす場所では早い時間で朝六時から――夜だって十二時近くまでジェット機だけと言わずに訓練用のレシプロ機だって、何ならスペースプレーンまで飛び交っている。
その環境で飛行機を見に行こうと誘われればすぐそこにある宇宙港に行くと誰だって思うだろう、空閑の口から出てきたのは女満別空港という言葉であった。
1043「圧巻だな、三時間半かけた甲斐がある」
定刻通りに離陸する旅客機のランディングが迫る。三脚で固定したカメラのシャッターを幾度も切り続ける空閑を見ながら、汐見もコンパクトカメラでパシャリと一度シャッターを切った。頭上をボーイングが飛び去っていく。
ひまわり畑の向こうに離着陸するボーイングという、他ではあまり見られない光景を見に行こうと空閑に誘われるまま朝早くからバイクを走らせて三時間半。飛行機は勿論好きだが、汐見が暮らす場所では早い時間で朝六時から――夜だって十二時近くまでジェット機だけと言わずに訓練用のレシプロ機だって、何ならスペースプレーンまで飛び交っている。
その環境で飛行機を見に行こうと誘われればすぐそこにある宇宙港に行くと誰だって思うだろう、空閑の口から出てきたのは女満別空港という言葉であった。
狭山くん
TRAINING2022-07-21/今日の空閑汐♂夏祭りはキャンプです!夏はやっぱりキャンプして欲しいよね。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day21 夏の夜は短い。未だ太陽の齎した熱が冷え切らない淡い色をした空を見つめながら、汐見は目の前で燃え盛る炎の中へと乾き切った枝を投げ入れる。
「これぞキャンプファイヤーだよね」
「まぁ、キャンプで火を焚いてるからな」
楽しげに声を上げるフェルマーに、何の感慨もなく言葉を返した汐見へ「相変わらずムードってもんを理解してないよな」と呆れた声を溢すのは篠原だ。
「ムードつったって、学校からちょっと離れたキャンプ場で野営してるって話だからなぁ、許可取れば校内でも焚き木位出来るだろ」
ナイロンとステンレスの枠組で作られた椅子に凭れながら、その横に積まれた木の枝を表情ひとつ変えずに火の中に放り込む汐見の横顔へとじとりとした視線を向けたフェルマーはため息と共に言葉を漏らす。
1573「これぞキャンプファイヤーだよね」
「まぁ、キャンプで火を焚いてるからな」
楽しげに声を上げるフェルマーに、何の感慨もなく言葉を返した汐見へ「相変わらずムードってもんを理解してないよな」と呆れた声を溢すのは篠原だ。
「ムードつったって、学校からちょっと離れたキャンプ場で野営してるって話だからなぁ、許可取れば校内でも焚き木位出来るだろ」
ナイロンとステンレスの枠組で作られた椅子に凭れながら、その横に積まれた木の枝を表情ひとつ変えずに火の中に放り込む汐見の横顔へとじとりとした視線を向けたフェルマーはため息と共に言葉を漏らす。
狭山くん
TRAINING2022-07-20/空閑汐♂夏祭りも2/3というとこですね!ちゃんと続いてるの偉いね!という事でやっぱり汐見♂には空を飛んでて欲しいのよ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day20 美しく染め抜いた青に白い山が聳えていた。まるで、この間のかき氷みたいだ。汐見は取り留めもなくそんな事を考える。
「おぉい、汐見。何ぼんやりしてんだ、行くぞ」
普段はジャージで通している汐見も、今日は青色のフライトスーツを纏っている。それはかつて宇宙に行ける人間が限られていた頃、宇宙飛行士のシンボルのようにされていたそれで。人々が気負いなく宇宙に行けるようになった今、そのシンボルは国際航空宇宙学院のパイロットコースに所属する生徒のユニフォームとなっていた。濃紺のフライトスーツを纏う吉嗣の声に空へと向けていた視線を戻し頷く。
「わかってますよ、センセ。ちょっと感傷に浸っても良いじゃないすか」
「感傷に浸るにはまだ若い。もうちょっとシャキッとしろよな」
1138「おぉい、汐見。何ぼんやりしてんだ、行くぞ」
普段はジャージで通している汐見も、今日は青色のフライトスーツを纏っている。それはかつて宇宙に行ける人間が限られていた頃、宇宙飛行士のシンボルのようにされていたそれで。人々が気負いなく宇宙に行けるようになった今、そのシンボルは国際航空宇宙学院のパイロットコースに所属する生徒のユニフォームとなっていた。濃紺のフライトスーツを纏う吉嗣の声に空へと向けていた視線を戻し頷く。
「わかってますよ、センセ。ちょっと感傷に浸っても良いじゃないすか」
「感傷に浸るにはまだ若い。もうちょっとシャキッとしろよな」
狭山くん
TRAINING2022-07-19/空閑汐♂の夏19日目!かき氷で愛の大きさを表現するな。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day19 ガラスの器に降る雪のような氷の欠片にフェルマーは歓声を上げる。小さな子供のようなはしゃぐフェルマーの様子を見ながら、汐見はかき氷機のハンドルを回していた。手回し式のかき氷機をどこからか引っ張り出してきたフェルマーは、その作業を汐見に押し付けて。汐見もそれを嫌がる事なく引き受けていた。
「アマネ、代わるよ?」
「俺がこの程度でへたると思ってんのか」
四杯分の氷を削った所で、汐見の後ろに立っていた空閑は彼に声を掛ける。空閑の言葉に心外だと眉を寄せた汐見に「まさか」と空閑は笑い声を上げて。
「じゃなくて、アマネのは俺に削らせてよ」
「あぁ、そう言う事。んじゃ遠慮なく」
空閑の言葉に一度頷いた汐見は、自身が立っていた場所を空閑へと明け渡す。そうすれば空閑は鼻歌混じりでハンドルに手を掛けるのだ。
1060「アマネ、代わるよ?」
「俺がこの程度でへたると思ってんのか」
四杯分の氷を削った所で、汐見の後ろに立っていた空閑は彼に声を掛ける。空閑の言葉に心外だと眉を寄せた汐見に「まさか」と空閑は笑い声を上げて。
「じゃなくて、アマネのは俺に削らせてよ」
「あぁ、そう言う事。んじゃ遠慮なく」
空閑の言葉に一度頷いた汐見は、自身が立っていた場所を空閑へと明け渡す。そうすれば空閑は鼻歌混じりでハンドルに手を掛けるのだ。
狭山くん
TRAINING2022-07-18/夏祭り18日目の空閑汐♂は汐見♂の独白になりました〜!まーーーた不穏なんだよなんなんだよ君らはよォ!(答:共依存)文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day18 ぼんやりと夜明け前の空を見つめていた。
背中には空閑の体温があって、窓の外は真夜中の黒く塗りつぶしたような闇よりもほんの少しだけ色付き始めている時間。汐見はこの時間が割合気に入っていて。すやすやと眠りながらもしっかりと自身に巻き付けられている腕や、背中で感じる空閑の体温や、微睡のピントが合わない視界の中で開け放たれたままのカーテンの向こうに見える空の色だとか。
そういったものをぼんやりと感じたり見つめながら、また眠りに落ちる。そんなぐずぐずとしたベッドの中での眠りを、汐見は空閑と出会うまで知らなかったのだ。
眠りに落ちる前には暑苦しいと言っていたとしても、夜明けの頃にこうしてぴったりとくっついている体温は夜の空気に冷まされた身体に心地よい。夜明けが始まる前の空は、まるで空閑の瞳の色のようで心に良く馴染む。寝ぼけている空閑が汐見の首筋に鼻先を埋めれば、その感触に背筋に甘いものが疼いた。
901背中には空閑の体温があって、窓の外は真夜中の黒く塗りつぶしたような闇よりもほんの少しだけ色付き始めている時間。汐見はこの時間が割合気に入っていて。すやすやと眠りながらもしっかりと自身に巻き付けられている腕や、背中で感じる空閑の体温や、微睡のピントが合わない視界の中で開け放たれたままのカーテンの向こうに見える空の色だとか。
そういったものをぼんやりと感じたり見つめながら、また眠りに落ちる。そんなぐずぐずとしたベッドの中での眠りを、汐見は空閑と出会うまで知らなかったのだ。
眠りに落ちる前には暑苦しいと言っていたとしても、夜明けの頃にこうしてぴったりとくっついている体温は夜の空気に冷まされた身体に心地よい。夜明けが始まる前の空は、まるで空閑の瞳の色のようで心に良く馴染む。寝ぼけている空閑が汐見の首筋に鼻先を埋めれば、その感触に背筋に甘いものが疼いた。
狭山くん
TRAINING2022-07-17/空閑汐♂夏祭り17日目〜!!今日も可愛い空閑汐♂です!ヤッターーー!!!文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day17 ずっしりと重いボールペンで、白い紙に黒い軌跡を残す。あまり上手くはない字が並ぶ紙を見て、空閑は満足気な笑みを浮かべていた。
「何やってんだ」
「改めて漢字で名前書いてみたんだけどさ、俺らの名前って海と空が入ってるんだなぁって思って」
汐見天音、空閑宙海と縦に並べて書かれた名前に書き足すように傘を付けた空閑に汐見は「何やってんだか」と呆れたように笑う。しかしその笑みは呆れの色が混じりながらも満更でもなさそうで。
「良いじゃん、相合傘。一度やってみたいな」
「デカい男二人でやったらお互いにはみ出るだろ、合羽でも着てやるつもりか?」
「それいいね!」
皮肉るような汐見の言葉に大きく頷いた空閑に「もう何でもいい」と汐見は投げやりな言葉を放つ。この反応は悪くない、と空閑は口元に弧を描いた。
992「何やってんだ」
「改めて漢字で名前書いてみたんだけどさ、俺らの名前って海と空が入ってるんだなぁって思って」
汐見天音、空閑宙海と縦に並べて書かれた名前に書き足すように傘を付けた空閑に汐見は「何やってんだか」と呆れたように笑う。しかしその笑みは呆れの色が混じりながらも満更でもなさそうで。
「良いじゃん、相合傘。一度やってみたいな」
「デカい男二人でやったらお互いにはみ出るだろ、合羽でも着てやるつもりか?」
「それいいね!」
皮肉るような汐見の言葉に大きく頷いた空閑に「もう何でもいい」と汐見は投げやりな言葉を放つ。この反応は悪くない、と空閑は口元に弧を描いた。
狭山くん
TRAINING2022-07-16/夏の空閑汐も折り返し!怪談話に弱い空閑とムードもクソもない汐見♂である。汐見♂がムードもクソもないのは通常運転ですね……文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day16 錆びついた金属で作られた扉を開けば、ひどく耳障りな音が響いた。
「蝶番まで錆び切ってるじゃん、やっぱりやめとかない?」
「センセが言うには、三十年位開けてないらしいぞ。センセも中見たことないつってたし。仕事なんだから仕方ないだろ」
ひどくぎこちない動きで開かれた扉に呆れたように声を上げ眉を寄せる空閑に、汐見は苦笑混じりで言葉を返す。学校の敷地の端に作られた旧格納庫、今まで取り壊す話が何度か出ていたらしいその場所は遂に取り壊される事が決まったらしい。取り壊し前の備品確認に召集されたのが空閑と汐見であった。
中に入り照明のスイッチを押しても反応ひとつ返ってこない薄暗がりに遂にため息を吐き出した空閑は、吉嗣に渡されていた懐中電灯で中を照らす。その場所はがらんどうで、寒々とした空間になっていた。
1289「蝶番まで錆び切ってるじゃん、やっぱりやめとかない?」
「センセが言うには、三十年位開けてないらしいぞ。センセも中見たことないつってたし。仕事なんだから仕方ないだろ」
ひどくぎこちない動きで開かれた扉に呆れたように声を上げ眉を寄せる空閑に、汐見は苦笑混じりで言葉を返す。学校の敷地の端に作られた旧格納庫、今まで取り壊す話が何度か出ていたらしいその場所は遂に取り壊される事が決まったらしい。取り壊し前の備品確認に召集されたのが空閑と汐見であった。
中に入り照明のスイッチを押しても反応ひとつ返ってこない薄暗がりに遂にため息を吐き出した空閑は、吉嗣に渡されていた懐中電灯で中を照らす。その場所はがらんどうで、寒々とした空間になっていた。
狭山くん
TRAINING2022-07-15/夏祭り15日目は汐見♂と吉嗣センセの話。吉嗣センセにも色々ありそうだしなんで私はこう不穏を入れたくなるんだ。(性癖)文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day15「――っとと、」
吉嗣の声と共にグラスの縁から溢れ出そうになる泡を見ながら、汐見は呆れたようにため息をひとつ。そんな汐見の反応を横目で見ながら「業務時間外なんだから良いだろ」と吉嗣は肩を竦めた。
「いやまぁ勝手にすれば良いと思いますけどね。テストの採点を俺に押しつけて置きながら自分は酒すか」
呆れ声で返された汐見の言葉に、吉嗣は上機嫌でカラカラと笑う。
「だってお前出来ちゃうだろ。答案は用意したし、お前そのテストで満点取ってたんだし」
「ヒロミだって満点だった筈なんすけどね」
「空閑は寮長会議に引っ張られてんじゃん。空閑が居ないとお前暇だろ」
赤い水性ペンをキュ、と鳴らしながらテストの採点を進めていく汐見は眉を寄せながら再びのため息を零していた。
1318吉嗣の声と共にグラスの縁から溢れ出そうになる泡を見ながら、汐見は呆れたようにため息をひとつ。そんな汐見の反応を横目で見ながら「業務時間外なんだから良いだろ」と吉嗣は肩を竦めた。
「いやまぁ勝手にすれば良いと思いますけどね。テストの採点を俺に押しつけて置きながら自分は酒すか」
呆れ声で返された汐見の言葉に、吉嗣は上機嫌でカラカラと笑う。
「だってお前出来ちゃうだろ。答案は用意したし、お前そのテストで満点取ってたんだし」
「ヒロミだって満点だった筈なんすけどね」
「空閑は寮長会議に引っ張られてんじゃん。空閑が居ないとお前暇だろ」
赤い水性ペンをキュ、と鳴らしながらテストの採点を進めていく汐見は眉を寄せながら再びのため息を零していた。
狭山くん
TRAINING2022-07-14/空閑汐♂夏祭りも実に14日目となりました!面倒臭い方の空閑を書くのは割と楽しかったりもする。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day14 月もなく、星々だけが煌めく中。構内の照明すらも落とされた真夜中のプロムナードを空閑と汐見はそぞろ歩く。常ならば煌々と輝いている筈の学校に隣接する宇宙港も、殆ど照明が落とされ心なしかひっそりとして。
「久々だな、この時間に外歩くの」
「そういえばそうかも」
真夜中の冷え切った空気が肌に心地いい。少し先を行く汐見の姿も闇に紛れてしまいそうで、空閑は彼に追いつくように足を早める。真夜中の散歩は高校生の身分であった頃から、時折汐見に誘われるままに行われていて。こうして歩き回るのは久々の事だった。
「まぁ、理由は分かりきってんだけどな」
少しだけ刺すような調子でそう重ねた汐見に、空閑は苦笑を漏らす。昨年までは夏の熱から逃げるように、この時期は幾度もこうやって外を歩いていた。その恒例行事のような夜の散歩が今年は今日まで行われていなかったのは、ひとえにこの時間に外を出歩ける状態になかったという事で。
1484「久々だな、この時間に外歩くの」
「そういえばそうかも」
真夜中の冷え切った空気が肌に心地いい。少し先を行く汐見の姿も闇に紛れてしまいそうで、空閑は彼に追いつくように足を早める。真夜中の散歩は高校生の身分であった頃から、時折汐見に誘われるままに行われていて。こうして歩き回るのは久々の事だった。
「まぁ、理由は分かりきってんだけどな」
少しだけ刺すような調子でそう重ねた汐見に、空閑は苦笑を漏らす。昨年までは夏の熱から逃げるように、この時期は幾度もこうやって外を歩いていた。その恒例行事のような夜の散歩が今年は今日まで行われていなかったのは、ひとえにこの時間に外を出歩ける状態になかったという事で。