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    忸怩くん

    DONE【鋭百】眉見の微体調不良
     乗換を調べてくれているのも、生徒会の議事録に目を通しLINKで修正指示を送っているのも、まっすぐに伸びた背中もいつも通りだ。駅のホームには北風が強く吹き込み耳を切るように過ぎていくため百々人は首をすくめマフラーに埋もれていたが、眉見は意に介さず少し緩めたマフラーから素肌を晒してまっすぐに前を見つめていた。その視線はいつも通りよりももう少し固くて、仕事中の気を張った眉見のままになってしまっているようだ。
     アナウンスが流れると遠く闇の中に眩い光が見え、風と共に電車がホームに滑り込んでくる。ほとんどの座席が空いている中、角席を眉見に譲ると一瞬の躊躇を挟んで小さく礼を言って座り、百々人もその隣にリュックを抱えて座った。こんな時間に都心へ向かう人は少ないのか車内は閑散としており、自分たちの他にははす向かいの角に座った仕事中といったふうの年配の男性だけだ。外とあまり変わらない程度の冷えた車内には、それに抗うよう熱すぎるくらいに足元の暖房ごうごうと音を出しながら膝の裏を熱する。一日ロケをこなしてきた体にはさすがに疲労がたまっているのか、それだけで瞼が落ちて無理やりにでも寝かしつけられてしまいそうだった。隣を見ると夏前の草木を思い起こさせる鮮やかな緑は変わらず揺れることなく据えられている。けれど腿同士くっついたところからは布越しでもわかるほどの熱が伝わってきていた。
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