スマホのシャッター音で目が覚める。
「…何撮ったの今」
ごめんと謝りつつ、ニシシと笑う彼のその頬を指先で軽く摘むと、案の定自分の恥ずかしい姿が画面の中に。
「俺の肩に寄りかかって寝ちゃって可愛い」
「誰にも見せんなよ」
「どうしよっかな～黒尾姫とかタグ付けて拡散しちゃおっかな」
「ヤメテ」
「もう寝る？」
「寝ません」
彼がまだ俺の髪を優しく撫でるから、眠りの誘惑に負けそうになるけど。
その体をベッドに引き上げて、スマホの代わりに俺の手のひらを握らせた。

雨　日が傾くにつれ勢いが増す雨音に混じって、外岡の吐息が聞こえる。
　カーテンを開いた窓に彼は顔を寄せていた。ガラスに額が触れるほど近づいて外を眺めているようだった。
　結露に指で書いた文字は、伝い落ちる水滴のせいで形が崩れてとうに読めなくなっていた。曇りが薄れたそこに二人ぶんの影が映っている。
　ただの雨なのに外岡があまりに珍しそうにするものだから、神田は背後から近づいて彼の背中越しに外を覗きこんだ。目に入ったのは見慣れた庭、いつも通っている道、それだけ。雨が降っていること以外は普段と何も変わりない。
「なにかあるのか？」
　外岡が振り返る。トレードマークのアップバングは少し乱れていて、細い一房が額に落ちていた。それを元に戻すように撫で上げてやると、気持ちよさそうに目を細める。